遅くなりましたが7月のお知らせです。暑くなっていますので熱中症にも気を付ける時期です。体調が保ちにくい時期ですので動物だけでなく私たちも気を付けて夏を乗り切りましょう!
8月の臨時休診のお知らせ
8/19(月)、8/20(火)、8/30(金)に臨時休診をいただきます。
※特に8/19(月),20(火)については8/18(日)と合わせて三連休となりますのでご注意ください。
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確定診断は必要か? ~実際の症例を元に正しい病態把握の重要性をお話しします~
院長です。今回は、病気に対峙した時の「診断」の話です。小難しそうな印象がもあると思うので、イメージしやすくするため実際の症例を元に「診断」ということについてお話ししたいと思います。
確定診断と臨床診断
「確定診断」は様々な検査を実施した結果導き出されます。決め手はいろいろありますが、病理検査が確定診断になることも多く、現実的には確定診断はすぐには出ないのが普通です。
さて、確定診断が無ければ治療はできないのか?実際はそんなことはありません。病気の症例と相対した時にまず重要なのは「病態の把握」です。そして「臨床診断」を行うことです。すぐの確定診断はできませんし、必要はありません。
「病態の把握」と言うのは「そこ(病変部や臓器)で何が起きてそうか?」それを想像するということです。
症例をよく見る、身体検査をする、ご家族の話を聞く、などの基本情報を基に、経験や知識、スクリーニング検査などの情報も組み合わせ「こんなことが起きてそうだな」と獣医師のアタマをフル回転させて考えるわけですね。
病態の把握、臨床診断を行った後、治療や検査の方向性を決めていくことになります。
確定診断は必要か?
もちろん、最終的には確定診断があったほうがいいし、いい治療がしやすいです。
これについては、当院の看板猫「なこ」が闘病中の「リンパ腫」について、確定診断~治療までを綴った闘病記録のブログ記事がありますので是非ご覧ください。どのように病気の確定診断を行ったかを詳細にお話ししています。
さて、話がそれましたが、現場では慌ててすぐの確定診断は必要ではなく、まずは病態の把握と臨床診断を「正しく」おこないます。むしろ確定診断をすることよりも重要かもしれません。
なぜなら「これ」が治療や検査を進めるうえでの「入口」となるからです。正しいゴール「出口」に向かいたいのに、入口を間違えたら一生出口には到達できません。
何が言いたいかと言うと、ドクターが最初に行う「病態把握」や「臨床診断」が間違ってると、スムーズな治療や検査方針につながりません。モチロン最終的な確定診断にもたどり着けないということです。
なお、すぐに「○○病です」という確定診断をするドクターもいるようですがそれはドラマの世界。確定診断とはそんな単純なものではありません。むしろ、すぐに診断めいた言葉をいうドクターにはちょっと気を付けたほうがいいです。現実の医療はドラマとは違います。
さて、今回は、獣医師が最初に行う「病態把握」と「臨床診断」が大事だよということを実際の症例を基にお話ししていきます。正しい「病態把握」「臨床診断」は正しい治療や検査への入口です。ココを間違えると出口にたどり着けないんだなということがよくわかる症例です。どうぞご覧ください。
症例紹介
症例の概要
- 14歳 柴犬 オス
- 病歴:10歳で甲状腺機能低下症、11歳から皮膚の痒み、13歳でアトピーと診断されているとのこと。
当院に転院してきた理由
皮膚が良くならないことに対するセカンドオピニオン。皮膚が痒い、脱毛している、悪臭を放つなどの症状。当院のHPやブログを読み、当院推奨のスキンケアなどで対応できないか?ということで来院。
前医での診断・治療・方針
- 甲状腺機能低下症への投薬
- アトピー性皮膚炎への対応としてアポキル錠の使用
- 良化しないのであれば、今後は食物アレルギーの可能性を考えて、食事療法などの対応しなくてはいけないという方針
当院初診時の皮膚の状況
全身(背中前方、体側、下腹が目立つ)に皮膚炎の状況、特に背中の皮膚は広範囲に脱毛している。
二番目の写真を見てもらうとわかると思いますが、背中~体側にかけては結構な脱毛で「毛根が生きてるかな?」と思うレベルでした。
正しい病態把握と臨床診断(最も重要なポイント)
さて、こっからが本題となります。
この皮膚の病態をどう把握し、どのような臨床診断を行うか。ここが重要なポイント、治療や検査計画の入口になります。
皮膚病変はどの部位にあるのか?、どのような皮膚病変か?、いつから症状があるのか?、ご家族はどのような症状を感じているのか?、今までの治療反応はどうか?、などの情報を組み合わせて、私のアタマで考えていくことになります。
まず、すぐにわかるのは重度の「二次感染」が起きているということ。細菌や真菌(カビ)などがたくさん増殖し悪さをしています。まずこれが、皮膚に炎症が起きている理由の一つなんだろうなと言う想像です。これについては見た目(皮疹)や顕微鏡での観察で容易に判断できます(なおここでの病原体は常在菌なので、どこかからやってきて伝染したものではなく、もともと皮膚に住んでいたものです)。
「じゃあそれで診断終了なの?」
・・・ではありません。これはあくまで「二次」感染なんですね。何が言いたいかというと、このこと(二次感染)は今回の病態の根本的な理由ではないということです。
アナタの皮膚に、いきなり細菌や真菌が大量増殖して悪さをしたら不気味ですよね?
- 今使ってるスキンケア製品が合わないのかな?
- 痒くて皮膚をひっかきすぎたのが原因かしら?
- 私の皮膚は免疫力がおかしいのかな?
などなどと、いろいろ理由を考えるはずです。
犬の皮膚に感染が起きた場合も考え方は同じです。
根本になんらかの問題があるから「二次感染」が起こります。この根本の問題が「一次要因」です。「基礎疾患」や「基礎病」と表現することもあります。私たち獣医師はどんな病気に遭遇した時も、今起きてる現象だけでなく、この「一次要因」を想像しています。すぐに答えが出なくとも、ここまで「考える」ということが正しい「病態の把握」となります。
皮膚に細菌が増えた場合は「膿皮症」という言葉があったり、真菌が増えた場合は「マラセチア皮膚炎」と言ったりします(※マラセチアは真菌の一つ)が、これらはあくまで二次感染を表したコトバ、状況をあらわしたコトバでありこれ自体は診断名ではありません。くどいようですが、皮膚にやたらと細菌やら真菌やらが増える理由(=一次要因)を考えないとならないのです。
では、一次要因になりそうなものは何でしょうか?
このような二次感染が起きている皮膚病において、一次要因としてよくあるパターンを紹介しましょう。
- アレルギー性皮膚疾患→最も多い。アトピー体質や食物アレルギー
- 脂漏症という肌質→これも二次感染(特にマラセチア)がおこりやすい
- 接触性皮膚炎→間違ったアイテムでのスキンケアや薬用シャンプー療法が二次感染の理由となることも
- 皮膚病を引き起こすダニ類→ヒゼンダニ、ニキビダニなど
- 内分泌疾患→甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症など
などがあります。ちなみに上から3番目、接触性皮膚炎についてはコチラの記事も読んでいただけると嬉しいです↓
さて、今回の症例では一次要因は何を疑うのでしょうか?
まずは、臨床で最もよく遭遇する「アトピーや食物アレルギー」ですが、結論から言うと今回の症例は「アトピーや食物アレルギーを第一に疑うような状況ではない」と私は考えました。理由は単純で、発症年齢がそぐわないこと、また病変部位や皮膚病変の様子が典型的ではないという理由です。アトピーや食物アレルギーの可能性が無いのかと言われれば、たしかにゼロではないですが、わざわざ可能性の低いモノを第一にして治療方針を決めるのは効率が悪すぎます。
ご家族の話と今の年齢に間違いやウソが無いなら、むしろアトピーや食物アレルギーは一次要因としてほぼ考えない病気となります。それぐらい通常のパターンとは違っているのです。
このように、一つ一つ症例の情報を整理し検討していったところ、一次要因の可能性として最も考えやすいのは、今現在患っていて治療対応中の「甲状腺機能低下症」もしくはまだ判明していない内分泌性皮膚疾患(具体的にはクッシング症候群))などで、まずこれが第一候補としてにアタマに浮かびます。モチロンその他の要因も検討することになりますが、やはりアトピーや食物アレルギーは最後の最後まで出てこない候補です。
さて、こっからが重要。
しかし、前医では「今の対応(アトピーへの対応)で良くならなければ今度は食物アレルギーを考えて対応しなくてはならない」と言う方針でした。
くどいですが、私はアトピーも食物アレルギーもどちらも全く疑わない状況と判断しています。
驚かれる方も多いかもしれませんがこれが現実です。診るドクターによってこんなに、180度見解が違うのです。私は特別皮膚病に精通しているわけではありませんが、今回の症例のどこをどう見るとアトピーや食物アレルギーを第一に考えていくのか理解ができませんでした。
前医には申し訳ありませんが、当院での治療結果から言うと「食物アレルギーの対応を始める前に当院に来てもらって本当によかったな」と思います。ご家族が病院を変えなければ入口の違う迷路に入り込んで、いくら探しても正しい出口が見つからない状況になっていたと思います。
さて、まとめると、私の初診時の一次要因に対する見解は
- 内分泌疾患、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症の可能性が高そう
- よくわからないスキンケアが行われているので、接触性皮膚炎も理由の一つとしてありえるかもしれない
- 脂漏症もありそうだがメインの要因ではない
- 皮膚病を引き起こすダニ類(ヒゼンダニやニキビダニ)は否定的
- この症例ではアトピーや食物アレルギーは考えない
というものでした。
アトピーや食物アレルギーだと思い込んでいたご家族は、キツネにつままれたような様子でしたが、疑う要素が全然ないのにウソは言えませんので自分の見解を正直にお話ししました。
初診時の治療対応や検査方針について
- 二次感染への対応として抗生物質と抗真菌薬を使用
- 当院推奨のスキンケアの開始
- 今後、一次要因追及のため必要な検査を実施させてもらうこととする
以上が初診時の対応となりました。
なお、当院推奨のスキンケアについては過去ブログもご覧ください↓
検査結果と治療反応
まず検査ですが、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症について精査をさせていただきました。
甲状腺機能低下症については「すでに診断済み」ということでその診断を信用し、治療が上手くいってるかどうかの検査を実施。結論を言うと、治療中にしてはホルモンの数値が思わしくなく、治療が上手く行ってない可能性を考えました。
そして副腎皮質機能亢進症ですが、これについては各種検査を実施し否定的な結果となりました。
以上の結果から、甲状腺機能低下症についての投薬を見直すこととしました。
これらの検査をこなしている間も皮膚のコンディションは少しづつ良化しており、二次感染への対応や当院推奨のスキンケアが奏功していると思われました。
一か月半後の状況
皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)は約3週とされています。1か月半はこのターンオーバーが2回終了する頃なので皮膚の評価にちょうどいいと個人的に考えています。
皮膚炎の所見はほとんどなく、ほぼ全域に発毛が見られます。発毛は炎症が落ち着き正しい発毛サイクルが営まれないと起こらないため、正常な皮膚機能を取り戻せてると考えられます。初診時の写真をもう一度↓
差は歴然ですね。私もここまで良くなるとは思っていませんでした。
背中全体的にもこんな感じ。見事にふさふさです(笑)
治療が上手くいった理由は?
今回、治療が上手く言った理由はただ一つ「病態の正しい評価=臨床診断」をしたからです。確定診断は二の次でもOKなんですね。まずは病態を正しく評価して、治療の入り口を間違えないことがものすごく重要です。
何も難しいことはしていません。これらの皮膚炎、皮膚症状を引き起こしている一次要因が何かを注意深く検討し「そこ」に対して「しっかり」対応しただけです。もちろん二次感染をしっかり押さえたのも大事(炎症状態が続いていると皮膚の正常な営みは行われない)ですし、当院推奨のスキンケアも皮膚コンディションの底上げになったのは間違えないですが、これらは補助的なもの、最も大事なのは一次要因、基礎疾患への対応なんですね。
私はアトピーや食物アレルギーの対応はほとんど行っていません。まあ疑っていませんので当たり前ですが。一応、アポキル錠(アトピー用の痒み止め)だけは前医からの流れもあり低用量で使用してますがそれも次回以降やめていく予定です。
この症例はもし当院に転院してこなければ、今頃色々と食物アレルギー用の治療用食を試していたところでしょうか?まあ、絶対に良くなりませんが。だってどうみても食物アレルギーじゃないですから。
入口を間違えると本当にひどい迷宮入りとなります。確定診断も大事ですが、それよりも獣医師が最初に行う病態の把握と臨床診断、これら初動対応がが重要だということを改めて認識させられました。
まとめ
皮膚病の転院症例を題材にして、病態把握と臨床診断の重要性を解説してきました。
大事なのは、無理矢理に確定診断(のようなもの)をつけるのではなく、今目の前にある症例の病態を正しく評価し、正しく臨床診断を行うことです。
病態を評価するのには、色んな情報を正しく整理する必要があります。といっても経験を積んだドクターならそれほど難しい作業ではありません。わかりやすい情報から処理して、可能性の高いものを考えていく作業です。
もちろん症例も病気も千差万別で、初診時の時点で病態把握が難しいケースもあります。それはそれで「病態把握が難しいという評価」となります。その場合も、やはりその場で無理矢理に確定診断をつける必要はなく、把握が難しいなりに時間軸を伸ばしながら判断材料を増やして、少しづつでいいので正しい病態把握を目指すことになります。
私も病気の初診時に「理由(一次要因)がちょっとよくわからない」と正直に言うことは結構あります。
その場合は、治療しながら、その治療反応により病態の理解を深めたり、新たな症状や兆候が出ればそれを判断材料としてより正確に病態を把握するよう努力していきます。
今回の症例は初診で正しく病態把握ができたことで、初動対応を誤らずにスムーズに治療や検査を進められたと思います。
逆に前医はアトピーや食物アレルギーに固執し過ぎたのか?正しい病態把握ができませんでした。そのためどう見ても食物アレルギーでない症例に、次のステップとして食事療法を検討していたわけです。痒みがあるからと言って何でもアレルギーではありません。せっかく甲状腺機能低下症を診断していたのに、それについて上手く対応できなかったのはとても残念です。せめて二次感染への対応だけでもしっかりと実施していればまた違ったかもしれません。
といっても、自分も同様のミスをしてしまう可能性もあります。常日頃から細心の注意を払って正しく病態を把握し、治療の入り口を間違えないようにしなくてはならないと、改めて気持ちが引き締まる症例でした。
それでは長文お付き合いありがとうございました。
ではまた!