大変遅くなりましたが5月のお知らせです。予防で来院する方が多い時期となります。混みあうことも多いので予約を上手に活用いただければと思います。土曜日の予約はとても混雑しますので、平日(特に午後)がおススメです。ご検討ください。
今月は、予防関連の中でも勘違いや間違えの多いこと=落とし穴、について解説いたします。
私(院長)ももう20年以上この業界にいますので、みなさんが間違えやすいポイントが良くわかっています。理解するのが面倒な人は、当院でアナウンスしている内容が正しい内容ですので指示に従っていただければミスはありません。
「いやいや、自分で理解したい」と言う人はぜひ今回の記事を参考にしてください。
さて、ではまずは狂犬病予防から。
狂犬病予防の「落とし穴」
まず大前提。
狂犬病予防は、犬の飼い主に課された義務であり、法律で定められていますので、飼犬には必ず接種していただくことになります。
各種予防の中で、唯一の義務ですから、打つことが前提と理解してください(逆に言うと、狂犬病以外の予防はすべて任意です)。
「打たなくていいとか」、「日本に狂犬病はないから」というのは接種しない理由にはなりません。SNS時代の今、こういうことを安易に発信する人がいますが、厳しく言うと犯罪行為です。これについては3月の記事<狂犬病予防~春の予防スタート~>もご覧ください。伝染病と言うモノの考え方について大事なことを書きました。
さて、狂犬病予防で最も勘違い、落とし穴が多いのが予防注射の接種時期についてです。
結論から言うと、狂犬病予防注射は「年度が替わったタイミング=4月(から6月)」が接種のタイミングです。
「え?、一年に一回なんだから、去年10月接種なら今年も10月でしょ?」と思っている方がとても多く、最近も複数の方にそう聞かれました。
どーーーしても、一年「後」じゃないと気持ち悪い、打ちたくない、という人もいます。
結論から言うとこれは間違いで、もう一度言いますが、接種のタイミングは年度替わりの4月~6月までの期間となっています。
ですから、前年度に何月に打っていようと、新年度(4月)になったタイミングで打つのが正解となります。ほとんどの方は毎年4月に接種しているので「一年後」になりますが、そうでない人は「一年後にはならない」のですね。
申し訳ないことに、ペットに携わる仕事をしている人(ペットショップ、トリマー、ブリーダー、時には獣医師や役所の方までも💦)が間違って理解して、一般の飼主さんに「一年後」と間違ったアナウンスをしていることがあります。大事なことなので本当は間違えてほしくないのですが、この業界は時にシロウトに毛が生えた程度の人(言葉が悪くてすいませんが)が仕事をしていることがあります。
狂犬病のことに限らず、ご家族に「ペットショップやブリーダーから○○と言われました!」という話を聞くと、大きく間違っている情報だったりすることも珍しくありません。常にいろんな情報に耳を傾け、わからないことがあれば当院にもご相談ください。
話がそれましたが、狂犬病の予防時期(6月末まで)については下記の様、法律でハッキリと記されていますので、この記事内で書かれていることが正しい情報です。ぜひご記憶ください。
<参考資料>各自治体のHPにもこのように案内があります(どちらもページ中程に4月から6月末までと明記されています)。
P.S. なお、木更津市のホームページには4月から6月までという重要な情報が書かれていません💦。木更津市のHPはこの狂犬病に限らず、どこの内容を見ても「見ずらく、利用しずらく、必要な情報を見つけにくい」のでしょうがないですが・・・。
さて、次はフィラリア予防。
フィラリア予防の「落とし穴」
フィラリア予防で最も多い勘違い、落とし穴は狂犬病と同様に「予防時期に関すること」です。
まず結論から。この地域のフィラリア予防は5月末(もしくは6月上旬からでもOK)からスタートです。そして終了は11月中旬以降に最後の予防となります。
もう少し具体的にすると
- 5月末、6月末、7月末・・・・11月末と、一か月ごとに合計7回の予防薬
- もしくは6月初、7月初、8月初・・・・12月初と、一か月ごとに合計7回の予防薬
このようになります。大事なのは5月か6月かではありません。5月31日と6月1日で違いはないことはわかりますよね?これぐらいの時期に始めればよいということです。
<リンク>フィラリア予防期間の考え方についてはDSファーマさんのページがおすすめ!
さて、予防開始時期と予防終了時期についてもう少し詳しく見ていきましょう。
予防開始時期について
関東での予防開始時期は はやくても5月の末ごろとされています。
「蚊が出てるから急がないと!」「お友達のワンちゃんは4月に予防していた!」
などなど、4月(早いと3月!)ごろから焦って来院される方も多いのですが、蚊が発生したらすぐにフィラリアに感染するわけではありません。
蚊=フィラリアではないので、ここに結構なタイムラグが発生します。
関東では、よほどの異常気象ではない限り最も早いフィラリア感染成立時期は5月の上旬とされています。これには明確な学問的理由があり、フィラリアの感染成立時期については気候条件が深く関係しています。
さて、フィラリア予防薬というのは、実は体内に侵入したフィラリア幼虫を駆虫するお薬です。「幼虫を駆虫することで、成虫が心臓に寄生するのを予防しようね」と言うイメージです。ですから、感染が成立する前(5月上旬の前)に予防しても意味がありません。
くどいですが「早くて」5月上旬に感染するわけですから、感染成立前の4月の予防は無意味です。
また、なぜ予防開始は「感染開始の5月上旬から!」ではなくて「5月末から!」になるのか?、についての理由も複雑なんですがきちんとあります。
実は、フィラリア幼虫が犬の体内に侵入した「直後」ではフィラリア予防薬は効かないのです。この辺は専門的で難しいのですが、フィラリア予防薬が駆虫効果を発揮できるのは、フィラリア幼虫が犬の体内に侵入後しばらく経ってからになるのです(難しいですよね、少し成長しないと効かないんです)。そのため、予防開始時期は早くて5月の末ごろとなります。
4月に絶対に予防が必要なのは日本だと沖縄ぐらい(沖縄県は通年必要)。九州の南部、鹿児島県であれば4月の予防を念のためやってもいいかもしれませんが、この鹿児島県でも過去15年間で最も早い感染成立は4月19日と推定されているので、5月初旬でも十分なぐらいと言えます。
「4月じゃないとダメ!」や「4月にやればオトク、割引!」などのうたい文句で4月(早いと3月!)の予防を煽る施設もありますが、これは販売戦略とポジショントークです。飼主さんたちの目線に立って、本当に必要な予防を提案しているわけではありません。
予防終了時期について
誤解や間違い、落とし穴が多いのは、予防開始よりも予防終了時期。これについてはまたそのころ(10月頃)にもう一度ご案内しますが、答えを言うとフィラリア感染が終わった後が最後の予防となります。具体的には、フィラリアの最終感染は遅くて11月中旬、ですからその後、つまり11月末~12月初となります。これも、11月だから必要、12月はいらないとかではなくて、この頃に終わればよいということ。
さて、ここに大きな落とし穴があります。最後の予防は蚊がいなくなって「しばらくしてから」になるのです。
ですので最後の予防の時は「寒くて蚊もいないし、もういいだろーー」とう方が山ほどいます。それこそ「儲けるためじゃねーの?」と思われることも。。。
最後の一回は実はとても重要なんですが、ココの感覚がわかりずらいせいか止めちゃう人が多いんですね。
ヒトによっては、本来は12月に飲むはずだった予防薬をあえて翌年の4月に飲ませて「トクしたぜ!」とドヤってしまいます💦
これは、必要な時期に予防せず、不必要な時期に予防していることになるので全くの無意味な行為なのですが、「寒いからいらない、春だから必要」というイメージ先行で考えている方にはなかなか理解してもらえません。。。
寄生虫の感染様式や成長サイクルは、皆さまが思っているよりもかなり複雑です。フィラリアは長年研究され、かなりのことがわかっていて、このように予防期間が決まっています。ですから「難しいことはいいです!」と言う人は当院の推奨通りに予防していただければ間違いありません。
「納得できん!」「もっと勉強したい!」という熱心な方はぜひ寄生虫館へどうぞ(笑)!
学生の頃は授業の一環で行きました。卒後も一度訪れたことがあります。おもしろいですよ!
最後にマダニやノミの予防です。
マダニやノミ予防の「落とし穴」
マダニやノミは現在被害増大中!!
さて、マダニやノミ予防に関する大きな落とし穴はこれも「予防時期」について。
本当に多くの方がなぜだか「フィラリアと一緒に予防」と思い込んでしまっています、が、全然カンケーのない虫たちです。フィラリアは上述のように予防期間が決まっています。対して、マダニやノミの予防期間は特に決まっていません。
まずは、フィラリアとは違うモノ、そしてマダニやノミはかなり危険な存在だということ、こういう意識を持っていただきたいと思います。違う存在なのですから、予防期間が違うのは当たり前ですよね?
マダニやノミは被害もフィラリアに比べて圧倒的に多いですし、ヒトへの被害も多数報告されていて、特にマダニ由来感染症のSFTS(重症熱性血小板減少症感染症)では多数のヒトが重症化、死亡しています。
<参考ニュース>
マダニ由来感染症「日本紅斑熱」での死亡例 広島県 (yahoo!ニュース)
マダニ由来の超危険な感染症「SFTS」での死亡例 長崎県 (yahoo!ニュース)
マダニ由来の超危険な感染症「SFTS」は野良猫に感染していることも!安易に触らないこと!(毎日新聞)
マダニ由来の超危険な感染症「SFTS」は千葉県でも確認されています(関東では初)
さて、「じゃあマダニやノミはいつから予防したら・・・?」と言う質問へのお答えですが、最初に述べたように予防期間は決まっていないので「今にでもしてください!!」、と言うのが答えになります。要は一年中リスクがあるってことです。確かに真冬の被害は少ないですがゼロではありません。気温が少し高ければすぐに被害が出るのでフィラリアよりも圧倒的に感染リスクが高いのがマダニやノミなのです。
なお「マダニやノミ」と「フィラリア」を一緒に予防する薬が欲しい!と言う方が時々います。
製品として、そういうモノは確かにありますが、当院では採用していません。
なぜなら、もう何度もしつこいですが、「マダニやノミ」と「フィラリア」の予防期間が全然違うからです。
大事なことなので何度も言いますが、マダニやノミは一年通して被害あり、期間は決まっていない。そして、フィラリアは5月末~11月末が予防期間となっています。なので、オールインワンの薬で予防するのは上手くないのです。そもそも「フィラリア」と「マダニやノミ」は全然違う虫たちですから、ペットを飼う方は「違う病気なんだ」とキチンと理解して予防していただいた方が良いと思います。
また、マダニやノミは予防薬をやっていても、まれについてしまうことがあります。これは予防薬の効果が切れかかるときに見られることが多いのですが、その時に「フィラリア予防もちゃんとできていないんじゃないか??」と不安に駆られてしまう方がいます。実際は「マダニやノミ」と「フィラリア」は別の成分で対応しているのでフィラリア予防はできているのですが、それはわれわれプロ目線だからそう言えること。一般の方からしたら「本当かよ?!」と思ってしまうのも無理はありません。そういう余計な不安が生じること自体も良くありません。
よって当院では、オールインワンの予防薬は取り扱っていません。皆様にも「何の予防を?」「いつまでやるのか?」ということを正しく理解していただき、取り組んでもらう方がワンコのためだとも思っています。わからないことはしっかり説明しますので、ぜひ勉強してみてください。
さいごに
「落とし穴」は思い込みや勘違いから発生します。感覚や先入観だけで物事を判断するとストンと落とされます。時に感覚や先入観で判断することも大事なのですが、コレが強すぎると間違っていてもなかなか気づけません。
何でもそうですが、時にはフラットな目線で色々調べたり勉強するのも大事ですよね。
私も診察時、治療や診断で「落とし穴」にハマりそうになることがあります。経験や感覚に頼りすぎたときに陥ることが多いです。
各種予防も感覚的に取り組んでいると間違えやすいのですが、まあ皆さんはプロではないので難しければ当院の推奨通りに予防していただければ間違いはありません。ぜひ頼ってください(笑)
それでは、長文お付き合いいただきありがとうございましたm(__)m