早いもので12月になりました。新型コロナの流行からもう2年になりますね。世界がいろいろと変わってしまいました。皆様にもご迷惑をおかけすること多く、日々のご理解ご協力に大変感謝しております。
12月の診療日程
年末年始は、12/30(木)~1/4(火)までお休みをいただきます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
※なお、年内の手術予約は緊急を除き12/20までといたします。
Q.よくある質問 「混合ワクチンは何がおススメですか?」
- 基本のワクチンで済ませるか?
- 基本のワクチンにプラスして「レプトスピラ感染症」の予防をするのか?
この二つからの選択、つまり二択となります。
実際はワクチンのことを「5種」「6種」「8種」「10種」などなど「数字」で覚えている方も多いと思います。いろんな「数字」があるんだから二択なんてことはねーだろ、というツッコミも入りそうです(笑)。
しかし、ワクチンの「選び方」という観点からみると、本当に上に示したニ択が重要なのです。
では、まず基本のワクチンとは何か?をご説明しましょう。
基本のワクチンとは、世界的に共通で予防が推奨されている
- ジステンパー
- パルボウイルス
- アデノウイルス
この3つのウイルス感染症に対するワクチンで「コアワクチン」といいます。アデノウイルスは2つのタイプがあるので、簡単には3つのウイルスで4つの感染症だと思ってください。
この4つの感染症に「パラインフルエンザウイルス」を混ぜたものが5種混合ワクチンです。実は「パラインフルエンザ」はコアワクチンには含まれないのですが、日本で販売されているワクチンの実情は最低でも5種混合ワクチンなので、この5種混合ワクチンを基本の「コアワクチン」として考えます。
なお、5種混合ワクチンに、犬のコロナウイルス感染症(人の新型コロナとは全くの別物です)を含めた6種ワクチンと言うのも、基本のワクチンと同じです。ただし、犬のコロナウイルス感染症の予防は「不必要」というのが現在のワクチン学会などでの見解です。ここは獣医師や診療施設により好みがわかれるところで「コロナが入っていたほうがいい」と思っている獣医師もいますし、メーカーとのお付き合いで基本のワクチンを6種(5種+コロナ)としている病院もあります。
私は、必要ないとされているものは極力省きたいと考えていますので、シンプルに5種混合ワクチンを基本のワクチンとして採用しています。
これで基本のワクチンの説明は終わりです。つまり②のレプトスピラ感染症の予防を考えていない人は、5種(または6種)を打つのが推奨となります。
さて、次にレプトスピラ症とはなにか?どういう犬で予防が必要なのか?についてお話ししましょう。
レプトスピラ感染症は人獣共通感染症で、血清型が200以上あるとされています。簡単に言うとタイプ(型)がすごく多い病原体ということです。ネズミ類を代表とする野生動物が保菌し、下水や河川が汚染源になると考えられています。ヒトでは毎年定期的に発生が見られています。また、犬の発生も散発的にみられ当院でも少数ですが経験のある病気です。
本題の「レプトスピラ症を予防するかどうか?」の判断基準は、ご自身のワンちゃんの「レプトスピラ感染症に対するリスクがどの程度か?」によります。
一例として
- いろんな場所に出かける→旅行、キャンプ、ドライブ
- 自宅周辺に野生動物が多い
- 河川や湖の近くに住んでいる
- レプトスピラの発生が多い地域
などがリスク要因としてあげられるかと思います。もちろんこれは一例で、どの程度リスクがあるかは簡単に決定はできない部分もあります。
最終的には、「現時点でのワンちゃんの生活スタイル」と「ご家族がワンちゃんとどのような生活を送ることを思い描いているか?」をよく考えていただき、リスクに応じて「飼主さんが選択をする」のが正解です。もちろん、獣医師がアドバイスをいたしますので、迷っている場合は遠慮なく相談してください。病院によっては問答無用で、レプトスピラ入りのワクチンを接種するところもありますが、これは本質的ではありません。なぜならワクチンを選ぶのは「ご家族の意思」が重要だからです。
なお、日本で予防可能なレプトスピラ感染症の血清型(タイプ)は2または4種類です。当院では日本の現状を鑑み、現状は2種で十分と判断しているため4種は採用していません。
まとめです。
当院では
- 基本のワクチン→5種混合ワクチン
- レプトスピラ症の予防までしたい場合→5種混合ワクチン+レプトスピラ2種=7種混合ワクチン
以上の選択になります。
ちなみに、6種、8種、10種は分解すると次のようになります
- 6種→5種混合ワクチン+犬コロナウイルス感染症
- 8種→5種混合ワクチン+犬コロナウイルス感染症+レプトスピラ2種
- 10種→5種混合ワクチン+犬コロナウイルス感染症+レプトスピラ4種
ワクチンの選択は「二択」と言う意味が、これでわかりましたでしょうか?
「基本の5種混合ワクチンにレプトスピラ症を加えるかどうか?」結局はそれだけ、ということなのです。犬コロナは上記にも書きましたが、私は「おまけ」のような存在で、あってもなくてもイイと考えています(当院は必要ないというスタンスです)。
ご不明点はいつでもご相談ください。
病院の猫「ナコ」の闘病記録 ~治療編②~
さて、先月のお知らせから「ナコ」の闘病記録をリスタート、治療のお話でした。
(※それ以前のことについては、下記10月のお知らせを参考にしてください。)
これまでの経緯は、10月のお知らせ「病院猫<ナコ>の闘病記録」をご覧ください。
抗がん剤を飲み始めた「ナコ」。
副作用はどうなの?お金かかるの?そういった、一般の方が抱きやすい興味や疑問について、ナコの例を基にお話しを続けたいと思います。
今回は「副作用」についてのお話です。
「抗がん剤=副作用」というイメージのヒトが、当然とはいえものすごく多いです。
副作用のことをお話しする前に、まずは「がん」「がん細胞」についてを理解する必要があります。みなさんが簡単にイメージできるようにお話ししますね。
当たり前ですが「がん細胞をやっつける」のが抗がん剤です。そしてその「がん細胞」は、どっかから飛んできてやってきたわけではなく、もともとは私たち自身の細胞だったわけです(そんなことはわかっていますよね)。
たまたま、細胞分裂をするときに間違えた複製をしてしまった結果、がん細胞は生まれます。しかし、健常な身体でも少数のがん細胞は日々できているんですよね。そのほとんどは、カラダの免疫細胞が壊してなかったことにしてくれています。ただ、まれに体の免疫による制御がきかず、どんどん無秩序に増殖をしてく細胞=がん細胞ができてしまいます。これが「がん」の始まりです。
(※よろしければ「はたらく細胞」というコミックを読んでもらえると、たのしく簡単に理解できると思うので参考にしてみてください!)
さて、何が言いたいかと言うと、やっつけるターゲットである「がん細胞」は「元・自分の細胞」なんですね。なので、都合よくがん細胞だけをやっつけられたらいいのですが、なかなかそうはいかず、ある程度「自分の細胞」も抗がん剤の影響を受けてしまいます。
抗がん剤は自分の細胞も攻撃しやすいため、副作用が出やすいのです。
逆に言うと、副作用が全く出ないレベルの抗がん剤の投薬量では「がん細胞に対しても効いていない」という可能性を考えなくてはいけません。
私たち獣医師は抗がん剤治療をするときに、副作用を「ゼロ」にするということは考えていません。抗がん剤の最大限の効果を引き出しつつ、最小限の副作用にすることを考えて投薬量などを決定しています。ですので、厳しいことを言うようですが、抗がん剤治療を実施している患者さんは、副作用「ゼロ」を期待してはいけません。治療をする以上は効果が無ければ意味がないので(もちろん、抗がん剤の効果が乏しく副作用だけであれば、治療をする意味はないのでその場合は中止にすることもあります)。
さて、副作用についてもう少し具体的にお話をしていきます。
影響の受けやすい場所は
- 骨髄
- 消化器
この二つです。この二つの場所は頻繁に細胞分裂を繰り返し、絶えず新しい細胞ができている場所なので、抗がん剤の影響を受けやすいんですね。
では、この二つの場所が攻撃されるとどういう症状が出るのでしょうか?
- 骨髄が攻撃されると・・・→貧血、血小板減少、白血球減少など
- 消化器が攻撃されると・・・→嘔吐、下痢、食欲低下
などが引き起こされます。
つまり、抗がん剤を実施している患者さんでは、常に消化器症状を軽くしてあげることを考え、骨髄は血液検査で定期チェックをする、こういったフォローがとても大事になります。「副作用は出るもの」と言う前提で向き合っていかなくてはいけません。
さて、ここからは「ナコ」のハナシにしましょう。
ナコは、抗がん剤を飲むようになってから、具体的にどういう副作用が出たのか?
・・・
実は、副作用らしい副作用はほとんど出ていません。
なんだよそれ?と思うかもしれません。「副作用が無ければ効いていないかも?」ってさっきは言ってただろう?!
というお怒りの声が聞こえてきそう(笑)
なぜだと思いますか??
- 投与量が少ないから??→ちがいます。
- 病院の猫だから??→ちがいます(笑)
少し考えてみましょう。
当たり前のことを言いますが、「抗がん剤を使う目的は、がんの治療をするため」ですよね??
では、抗がん剤の治療が上手くいくとどうなるでしょうか?
そう「がん」によって出ていた症状がラクになるわけです。
「え?なんかすごく当たり前すぎて、何を言いたいのかわからないよ」と言う人もいるかもしれません。
では、ナコはどういう症状が出ていたか覚えていますか?
- 嘔吐
- 食欲低下
- 体重減少
これが主な症状でしたね。
これの原因が、消化器型リンパ腫(小腸のリンパ腫)だったことは、今までさんざん解説してきました。
そして「ナコ」に抗がん剤治療をすると、このリンパ腫がやっつけられていくわけです。
・・・
てことはですよ。リンパ腫によって引き起こされている「ナコ」の症状は良くなっていくわけですよね?
つまり、抗がん剤による治療効果が抗がん剤による副作用を上回れば、見た目は悪い症状はみられにくい、それどころか体調がどんどん良くなる印象を持つ、そういったことも多いのです。
すごく単純な話なんですが、多くの方はココを見逃しています。
副作用のことばかりに気を取られてしまい「病気が良くなってその結果症状が楽になるかもしれない」という視点で考えることができないんですね。
確かに抗がん剤治療直後の、数時間から一日ぐらいは、ちょっとだるいとか気持ち悪いとか食欲が出ないなどなど、ということはよくありますが、治療が上手くいっているときはトータルで見ると症状は良いと感じることも珍しくはありません。
ただ、
「じゃあ、必ず良くなることが保証されるんですか???」
「絶対副作用は出ないんですね???」
という質問には残念ながらNO!とお答えすることになります。
全ての治療で、必ず治るとか副作用はゼロと言うモノはありません。
以前も同じことをお伝えしましたが、何かを得るには、何かを捨てる必要が有ります。
そして、順番は捨てるのが先。
これは世の常、原理原則で「痛みを受け入れてから利を得る」というこの順番しかありません。僭越ですが「あれもヤダこれもヤダ、でもプラスが欲しい」というのは全てにおいて上手くいかないものです。
抗がん剤治療であれば、「副作用が出ることもあるんだな」ということをまず受け入れてから覚悟して望むしかありません。
何もよりも、がんにならないことが最もいいですが、やはり最近は高齢化に伴い「がん」になってしまった動物たちをとても多く診察します。獣医療域でも新しい抗がん剤が出たり、がんに対する治療も日々進んでいます。副作用がゼロで完璧にがんが治るような治療が早く出てくれればいいですが、それはまだまだ先でしょう。
みなさまのご家族が「抗がん剤」のことなんて考えなくていい人生を送れることを祈りながらも、もしもの時はこの「ナコ」の治療のお話が、皆さんの治療選択に少しでもお役に立てていれば幸いです。
次回は、抗がん剤のコスト=お金、の面をお話ししたいと思います。