◎セミナー参加レポ◎「“保湿”TOKYO SKIN CARE FESTIVAL 2019 for animals」

こんにちは。スタッフの栗田です。

8/29(木)に行われた『東京スキンケアフェスティバル 2019 for animals』というセミナーに参加しました。

遅ればせながら内容を飼い主様向けにまとめてみましたので、飛ばし飛ばしでも構いません、読んでみてください(*^-^*)


このセミナーの主題はずばり

保湿。

ヒトの世界でも日常的に聞く言葉だと思います。

当院におけるわんちゃんの診察の中でいちばん件数が多いのが皮膚のトラブルなのですが、その治療・予防法として動物医療の世界でも日々研究でにより重要性を裏付けられつつあるのがこのテーマ、『保湿』です。

保湿…。スキンケア…。

私自身アトピー性皮膚炎とは長い付き合いなので身近な言葉ですが、特に自分関わりを感じない方にとっては

「保湿って毎日やらなきゃいけないの?」

「美容的な目的なんじゃないの?」

などの印象を持っていることもあると思います。

ましてやペットにホシツなんて!!セレブじゃあるまいし!

なんて意見ももしかしたら。

…わかります、私は実際半信半疑な部分がありました。

しかし今回のセミナーで、皮膚トラブルの仕組みと保湿の重要性について理解が深まり、スキンケアの実践法を学ぶことができて、皮膚管理に関する自分の認識・ペットのケアを見直す必要があると気づけました。

そして皮膚に問題を抱えたペットにとって、食事や散歩をしたり、遊んだりするのと同じくらい、『保湿』が習慣になるべきことだとも感じました。

その一端が皆さんに伝われば何よりと思います。

先に言っておきますが、この『保湿は大事です』という主張は、皮膚病を抱えたわんちゃんにだけ宛てたものではありません。皮膚が健康なわんちゃん(の飼い主さん)にもぜひやってもらいたいことなので強く勧めていることを知っておいてください。

それでは本編です。


項目

「保湿」とは…

  • なぜ大事なのか
  • 仕組み
  • 種類・選び方
  • やり方・方法
  • オススメアイテム一例
  • まとめ

保湿はなぜ大事なのか

『保湿』という言葉そのものを見てみると、意味は『湿度を保つ』となりますが、そもそもなぜわんちゃんの皮膚の健康のためには湿度を保つことが重要なんでしょうか?

皮膚は身体の一番外の部分で、常に様々な外的刺激に晒されていますね。

それらから守るために皮膚に備わっているのが、バリア機能です。

被毛で身体が覆われてはいますが、イヌの皮膚の層はヒトより薄くて弱い、つまりバリア機能がヒトと比べて強くないのです。だから皮膚トラブルを起こしやすい傾向にあります。

正常な皮膚では下図のように、皮脂膜・角層(=皮膚バリア)が皮膚の水分を保ち、空気中の抗原や微生物からの刺激から守る働きをしています。

図①(ヒトの皮膚の図ですが、基本構造はイヌも同じです)
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/32_atopy/

アトピー性皮膚炎のようになんらかの体質的な理由で正常なバリア機能を保てない場合は、角層の間から水分が蒸発しやすくなり、外的刺激も受けやすくなってしまいます。

この皮膚の水分蒸散量(経皮的水分蒸散量)とバリア機能は相互に影響していると研究でも示されており、自らの身体機能だけでは皮膚の水分を保てない場合(=バリア機能が低下している場合)保湿処置が欠かせないのです。

と、これはすでに皮膚疾患のあるわんちゃんの場合でしたが、健康なわんちゃんにとっても皮膚のバリア機能を維持するというのはとても大切なことなのです。

ニワトリが先タマゴが先かの問答のように、アトピーやアレルギー体質があるからドライスキン・かゆみ等の皮膚異常(皮膚バリア異常)が出るのか、バリア機能が落ちることによってアレルゲンの刺激を受けアトピーやアレルギー体質が現れるのか、という議論は未だ研究の段階にあるようです。

体質という言葉に重きを置きがちですが、ある実験ではアトピー体質の親から生まれた新生児のグループを保湿剤を塗布する・しないというように分けたところ、保湿をしなかったグループはアトピーの発症率が43.4%だったのに対し、保湿をしたグループは21.8%に抑えられたそうです。

つまり、若くて皮膚の健康なわんちゃんでも、保湿をすることで皮膚トラブルの発症を”予防”できる可能性があるということなのです。

特にアトピーの好発犬種(柴犬、シーズー、トイ・プードルなど)は子犬の頃から保湿をすることで、アトピーの体質だとしても発症を抑えたり、症状の進行を緩やかにしたり、事前に対応・対策をとれるので推奨されます。

ということで、皮膚が健康でもそうでなくても、保湿は重要なのです、というお話でした。

保湿の仕組みとは

では次に”保湿”という行動は具体的に何をすることなのか?どういう仕組みなのか?というお話です。

保湿=皮膚バリアを補う・強化する、ということで皮膚バリアをもう一度見て見ましょう。

図②

このように、角質層は角質細胞が細胞間脂質によってつなぎ合わせられてできており、それを皮脂膜が覆っているという状態です。

皮脂膜は、階層構造である皮膚の一番表面の層です。主成分は脂肪酸系脂質で、天然の保湿クリームのようなものですね。皮膚常在菌が棲息し、外的刺激から守ります。

角質細胞間脂質とは、角質細胞同士を繋ぎ合わせる接着剤のような役割をしており、これが不足すると図①のように角質細胞の間に隙間が生まれ、水分が蒸発しやすい環境が生まれてしまいます。

これらの働きを助けるにはどうすればよいのかというと…

図③

『細胞間脂質を補う』角層バリアを保ち、

『水を引きつける』保持する水分を増やし、

『皮脂を補う』水分の蒸散にフタをする。

これが保湿の仕組みの要になっています。

皮膚の水分の保持力を上げて、それにフタをするという相乗効果のある保湿ができることが理想ですね。

保湿剤の種類・選び方

じゃあ何を使えばいいのか、というステップに入ります。

図④

まず保湿に使用するものというのは、その作用から大きく二つに分かれます。

保湿剤…成分自体に水を保持する作用があるもの

‐例:生体水溶性高分子(ヒアルロン酸、コラーゲンetc)、細胞間脂質成分(セラミドetc)

閉塞剤…皮脂補充効果、水分の喪失を物理的に防ぐ作用があるもの

‐例:油性成分(ワセリン、スクラワンetc)

図④で言うと、水を引き付けて細胞間脂質を補うのが保湿剤で、皮脂を補うのが閉塞剤ということになりますね。

そしてこの保湿剤・閉塞剤にはさまざまな種類があります。

基剤(薬成分以外の材料)の違いで分けると以下のようになり、

図⑤

この基剤の違いによりそれぞれに特徴があります。

図⑥

一般的に、表で言うと上に行くほど刺激(沁みるなど)は弱いですが、塗ったときにのびづらいなど使いづらさは上がると感じられます。

図⑦

特徴をもとに使い分けるとすると、それぞれ以下の場所に使うことが勧められます。

図⑧

それぞれの特性から使用に適する部位が異なるのはもちろんですが、同じく大事なのはご家族の使用感です。

飼い主さんの『使いやすい』『使いづらい』という部分を重要視することが、保湿を継続することに繋がるからです。

ということで、さまざま種類がある中で選択の基準になるのは

  • 使用する部位
  • 皮膚の状態
  • 自分(飼い主)の使用感

となり、これに基づきアイテムを探す・または獣医師とともに相談してケアの方法を選択していくことが推奨されます。

具体的なアイテムの紹介は一番最後に!

保湿のやり方・ポイント

図②~図⑧は当セミナー内のVet Derm Tokyo 伊從慶太先生による『保湿剤の選択基準と実践』の講義を参考に作成したものなのですが、同講義内で挙げられていた保湿のポイントがコチラ↓

  1. 続ける
  2. 正しく塗る
  3. 工夫する

1.続ける

人間の肌の手入れもそうですが、たまにエステに行ったりパックをしたりしても、それ以外はまったく手つかず…では良い状態をキープすることは難しいですよね。

わんちゃんにする保湿も同じです。”いい状態をなるべく保つため”に行う毎日のお手入れなので、できるだけ継続してあげる努力が大事です。

2.正しく塗る

飲み薬ではよく『用法・用量を守って』なんて言われますよね。

外用薬や保湿剤は塗る量がまちまちになりがちだったり、もったいないなんて思って少なくなったりすることもあると思うんですが、これもしっかり量を塗らないと意味がないということを理解しなくてはいけません。

そこで皮膚科で一つの目安として使われている単位をご紹介します。

図⑨ https://seta-clinic.com/blog/staff/1415

書き起こしになりますが↓


フィンガーチップユニット(軟膏・クリーム)

…1FTU(約0.5g) ⇒口径5mmのチューブで成人の人差し指の第一関節までの量

⇒これを手のひら2枚分の面積に塗布

ワンコインユニット(ローション)

…1円玉と同じ面積のローション

⇒これを手のひら2枚分の面積に塗布


という基準が一つの方法として知られています。

ステロイド外用剤などのお薬ではこの1FTU(フィンガーチップユニット)やワンコインユニットの量で薄く塗り広げて使います。自分でやってみるとわかりますがこれでも結構塗っているな、という感触があると思います。

しかし保湿剤などは、(皮膚に良いものをしっかり選べば)たっぷりぬってもOKなので、上の2~3倍の量を使っても大丈夫なくらいです。

自分でその量を手のひらに塗り広げてみてください。かなりあるな、と感じると思いますが、保湿は量が足りないと意味がないので、それぐらいしっかりした量を使いましょう――端的に言うと、ケチったらダメですよ、ということですね笑

3.工夫する

これについては、

  • タイミング
  • 効率

の2つが関わってきます。

一つ目のタイミング

保湿ケアが要となるアトピー性皮膚炎では、かゆみがよく出る部位として、手足の先端、お腹周り、口周りなどがあるのですが、これらはどれもあまり触られたくないというわんちゃんが多いです。

そのため、飼い主さんが一生懸命ケアしてあげようとしても、わんちゃんは嫌がってしまい、お互いストレスになって毎日やるのが難しい、という事態になりやすいです。

そこで、わんちゃんの意識が他のことに向いているタイミング——例えばお散歩前やおやつを見せた時、お昼寝をしているときなど――を狙っていくことが大事です。

気が逸れているときにやることで、わんちゃんが舐めてしまったり、気になってしまうことも少なくなります。(保湿剤が舐めても安心な成分でも、舐めれば効果が減ってしまうことは確かなので)

また、保湿は毎日すべての部位にやらなければいけないわけではありません。

くどいようですが無理なく続けることが一番ですので、今日はお散歩前に手足まわり、今日はお昼寝の隙間をみてお腹まわり…など、少しずつでも大丈夫なので、お互いなるべくストレスなくできるタイミング・ペースで行う工夫をしましょう。

2つ目の効率について!

保湿に関していう効率とは、いかに保湿成分を角層まで届けて、どれほどの利益を得られるかという点。

ヒトで言うと、一般的に化粧水や乳液を塗る前に洗顔をしますよね。これは、保湿するまえにまず汚れを落とすことによって、より水分を奥に届かせるためです。わんちゃんも同じように考えましょう。

もう一度この図を使います。

”保湿成分を奥まで届ける”=角質層まで浸透させること、とすると皮脂膜が汚れていてもなかなか入っていかないし、角質層が硬いままだと届きにくいのです。

なので薬や保湿剤を塗るときは、事前に部位をキレイにすることをおすすめします。

できるときは全身シャンプーでも構いませんし、手足だけ洗ったり、からだ拭きシートなどで拭いたりするだけでも何もしないよりはずっと保湿の効果を得られます。

角質層を柔らかくするためには、ヒトと同じように、湯船に浸かる(入浴)のが有効と言われています。

ヒトでいうと、入浴剤としてお湯に混ぜて保湿浴ができるエモリカという製品が有名ですね。イヌの皮膚科領域でも、獣医師がエモリカを使った保湿浴を治療の一択とすることは少なくなかったようで、最近動物専用の製品も開発されたようです。(これも下記で紹介します)

湯船に浸かるのはわんちゃんのサイズによっては場所を選びますが、汚れの除去・角質の軟化を同時にできるので、かなり有用な手段に思えます。

もう一つ効率を上げる方法として、異なる基剤の保湿剤を組み合わせることが挙げられます。

例えば、スプレー剤で先に水分を含ませたところにスポット剤を使うと、広がりもよくなり浸透力が上がる…。ローション剤を使った後に軟膏を使えば、保湿成分の浸透・水分の蒸散を防ぐという2つの効果が得られる…。など!

以上①事前に汚れを落とす・角質を柔らかくする②複数の保湿剤を組み合わせる、が保湿の効率を上げるためにできる工夫です。

オススメ保湿アイテム

それでは最後に、具体的におすすめ製品をいくつかご紹介します。

①当院ですでに扱っている製品と、②③はセミナーで数多紹介のあった中から、保湿の選択肢として新しく取り入れても良いのでは、と思った2つを選びました。

①N’s drive スポットバリア

N’s driveとは、当院でおすすめしているスキンケアシリーズです。その中で日常の保湿アイテムとしてお使いいただけるのがスポットバリアという製品です。

保湿クリームのような感覚で使うものですが、触った感じはクリームというよりはさらさらしていて、ローションの方が近い感触です。

使い心地に加え、手軽なサイズ、そして専門獣医師が科学的分析データを基に開発したものということもあり、病院としても大変勧めやすいです。

N’s製品全般に言えることですが、全身にお使いいただけて、舐めても問題ないですし人間でも使用できるくらい安全な成分で作られていて安心してお使いいただけます。

当院では処方し始めて数年。保湿ケアを取り入れている方からは手厚くリピート頂いています。

N’sシリーズに関しては下の院長のブログもご参照ください↓

セミナー参加レポ~保湿の力~

②ヒノケア for プロフェッショナルズ スキンローション

今回のセミナーでイチオシされていたバイエル社の新製品です。

『保湿のしくみ』でお話しした保湿剤に求められる三つの役割…

  • 皮脂を補い水の蒸散を防ぐ
  • 水分を保持する
  • 細胞間脂質を補う

を満たす成分が含まれているそうです。

  • スクワラン…角質表面を覆う閉塞剤
  • リピジュア®…ヒアルロン酸の2倍の保湿力のある高分子ポリマー
  • セラキュート®…セラミド関連物質

(詳しくはコチラ⇒製品情報

乳剤性(水と油)のローションという分類で、のびが良く刺激性にも配慮があります。浸透性も高いようで、実際セミナーで製品を使ってみたのですが、手に取ってイヌの被毛の上に押しあてると、毛が多くても皮膚の方へ入っていく感触がありました。

同じシリーズでシャンプーもありますが、名前の通りヒノキの香りがするので、そこも一つ選択するときのポイントかもしれません。

③ダーマモイストバス

こちらは『保湿の工夫』の話で挙げた、犬・猫用の保湿浴剤です。

製品情報に詳しく書かれていますが、このダーマモイストバスの入ったお湯に浸かるだけで洗浄しつつ保湿までできるというのは手軽だし、シャンプーをするのさえ刺激になってしまうような皮膚の弱いわんちゃんにはもってこいですよね。

当院では皮膚病のわんちゃんに向けてN’sシリーズを使用した薬浴を実施しておりますが、その一環として保湿浴を取り入れるというのもアリなのかな、と思ったり。

まとめ

・皮膚病の有無に依らず、皮膚の健康=皮膚バリアの維持には保湿がとても大切。

・皮脂膜を補い、水分を保持し、細胞間脂質を補うことが保湿のカギ。

・保湿剤にはさまざまな種類があり、部位・皮膚の状態・飼い主の使いやすさなどを考慮して正しく選択する。

・保湿のポイントは「続ける」「正しく塗る」「工夫する」

・信頼できる製品を使う

以上が、今回のセミナーで私が飼い主様方にお伝えしたいと思った内容でした。

”かゆみ”というのは大きなストレス因子になるものです。

イヌにとっても人間にとっても同じで、一日中「かゆい!」から逃れられないというのは生活の質を大きく下げてしまうことでしょう。

人間ならまだ我慢という手もありますが、わんちゃんはそれを知らないので真っ赤になるまで掻いてしまうこともありますよね。

そんな苦痛も、正しい治療・お手入れで取り除くことができます。

わんちゃんの場合自分で解決することは叶いませんから、ご家族がスキンケアの理解を深め、わんちゃんの皮膚の状態をよく観察・把握して日々保湿というお手入れを習慣づけていきましょう!

N’s driveの公式ぺージでもスキンケアに関してわかりやすくまとめられているので、ぜひご参照ください↓↓

https://www.nsdrive.com/user_data/skin_care.php

最後まで目を通してくれてありがとうございます!

皮膚のこと・保湿のことで気になることがある方はいつでも診察にてご相談くださいね(/・ω・)/

それではまた~

くりた

【はとりの動物病院】診療時間

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