6月のお知らせ <不妊去勢手術と関連疾患>

スイマセン、ブログ更新作業をミスしており、公開が大変遅くなってしまいましたが6月のお知らせです。暑さも本格的になり、熱中症を警戒する時期となりました。特に短頭種や肥満傾向の犬では熱中症リスクが高く、私たちが思うよりも容易に熱中症に陥ります。締め切った部屋や自動車などの空間には十分注意してください。

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不妊去勢手術と関連疾患

ここ一か月ぐらい、不妊手術や去勢手術をお任せいただくことが多く、この6月も手術依頼を多く受けています。

 

不妊去勢手術は、早ければ生後6か月ごろから実施しますが、中にはいろいろと悩んだ末、あるいは病気の治療のため「それなりの年齢」になってから実施することもあります。

 

さて、ここ最近、不妊や去勢をしていないことを理由に発生した病気での来院が相次ぎました。そこで今回は、この「不妊手術」「去勢手術」について、これに関連する「病気」の視点から解説してみたいと思います。

 

まず、言葉の確認を最初にしておきましょう。

  • 不妊手術→女の子の犬猫の卵巣(または卵巣と子宮)を摘出する手術です。避妊手術と同じ意味だと思っていただいて結構です。
  • 去勢手術→男の子の犬猫の精巣を摘出する手術です。

 

不妊や去勢手術は、当院のような一次病院ではごく一般的な手術で、開院以来数多くの手術をお任せいただいてきました。幸い麻酔事故や手術事故はゼロで現在まで手術を達成しています。

 

不妊去勢手術についての一般的なハナシについては、相談や質問も多い分野なので、すでに不妊・去勢関連のブログ記事を作っています。コチラもぜひご覧ください。

10月のお知らせ <犬の避妊・去勢 まとめ記事>

 

今回は、ちょっと動物病院らしく(笑)、不妊去勢に関連する「病気」の視点から解説していきます。

 

最近、新しくペットを迎えた方、手術を受けるかどうか悩んでいる方などはぜひ続きをご覧になってみてください。なお、当院の診療対象動物は犬と猫ですが、猫については若いうちに不妊や去勢をしないと人間と暮らすのが難しく、ほとんどのケースで若いうちに手術済みとなります。そのため、不妊や去勢をしないために発生する病気も少ないため、今回は「犬」についてのブログ記事とさせていただきます。

 

 

不妊手術と関連疾患

まずは女の子のワンちゃんについて、不妊手術とその関連疾患をお話ししましょう。

 

子宮疾患

子宮疾患は不妊をしていない女の子のワンちゃんでは非常に一般的な病気です。中でも「子宮蓄膿症」と言う病気が有名です。治療が遅れると命取りになるケースもあり、愛犬が不妊をしていない場合、そのご家族は常に気をつけておかなければならない病気の一つです。

 

発情出血が終了し2か月後ぐらいのタイミング、この時期は子宮のコンディションが悪くなりやすい時期で、この「子宮蓄膿症」の発生率が高くなります。

 

そのため、不妊をしていないワンちゃんの場合、「発情がいつ来たのか?」「いつ頃終わったか?」などの記録は、健康管理の一つとして重要となります。なお、子宮の腫瘍や膣の腫瘍も女性ホルモンの影響により発生することがあり、未不妊の犬では注意が必要です。

 

治療には、卵巣子宮全摘出手術が必要です。子宮蓄膿症は緊急疾患で、様々な合併症(各種ショック、腎不全)などを引き起こしやすいため、大げさに聞こえるかもしれませんが「命がけ」の手術となります。

 

過去に飼育していた犬がこの病気を経験したことがあるご家族だと、二代目の犬を迎え入れたときに「今回は早く不妊手術を受けたい」と希望されることがとても多いです。

 

乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は犬の腫瘍の中でも最も一般的な腫瘍の一つです。データ的には発情未経験の犬での乳腺腫瘍の発生率は極めて低いため、これを理由に初回発情前の手術をお勧めするぐらいです。何度か発情を経験してから不妊手術をした場合は、初回発情前に不妊した犬と比べて、乳腺腫瘍の発生率が高くなります。

 

巷では「犬の不妊手術は発情を経験させてからが良い」というような謎の都市伝説的なハナシがありますが、医学的根拠はありません。乳腺腫瘍の発生率を極力ゼロに近づけたければ初回発情前に不妊手術を実施するべきで、どのような経緯でこういう伝説があるのかは不明です。

 

もし、乳腺腫瘍が発見された場合は、手術前の良性・悪性の鑑別は難しいため、手術で摘出してから病理検査で良悪の診断を行います。なお、乳腺腫瘍は複数~広範囲に発生することも多く、場合によっては片側乳腺全摘出(第一~第五乳腺全て)というかなり広範囲の外科手術が必要となります。

 

偽妊娠(想像妊娠)

不妊をしていない犬では、発情終了後しばらくしてから、妊娠をせずとも乳腺が発達し乳汁を分泌することがあります。この状況を「偽妊娠」と呼んでいます。

 

これに伴い、乳腺炎や周囲皮膚の炎症を起こすことがあります。犬も乳腺が張って違和感がありますので、しきりに舐めたりしますし、ホルモンバランスの乱れからか、行動が不安定にもなりやすいです。

 

症状を緩和するためにお薬を使うこともありますが、根本解決には不妊手術が必要です。

 

発情期の体調不良

病気とするかは微妙ですが、発情期に体調が悪くなるワンコは結構多いものです。発情期ではホルモンのバランスがダイナミックに変動するため、犬によっては大きく体調を崩すことがあります。これは個体差が大きく、何事もない犬もいれば、発情期の1~2か月の間ずっ~と具合が悪い、と言うワンちゃんも珍しくありません。

 

あまりに発情期の体調不良がきつい場合、ワンコのつらい姿をご家族も見ていられないようで「それ」を理由に不妊手術をしてほしい、と希望される方もいるくらいです。

 

 

去勢手術と関連疾患

続いては男の子のワンちゃんについて、去勢手術とその関連疾患をお話ししましょう。

 

前立腺疾患

前立腺は未去勢の犬では必ず大きくなる組織です。つまり「前立腺肥大」は未去勢犬で100%起こるということです。もちろんすべての犬で症状が出るわけではありません。しかし、肥大した前立腺は嚢胞を形成したり、感染(化膿性前立腺炎)などを起こしやすく、こうなると様々な症状が出るようになります。

 

また、前立腺嚢胞や化膿性前立腺炎を経験しているうちに、最終的に「前立腺膿瘍」という状況に陥ることがあります。前立腺膿瘍は致死的な病態で、この状況になってしまうと助けてあげることが非常に難しくなります。

 

前立腺肥大を治療する場合、基本的には「去勢手術」が必要になります。去勢手術をするだけで、前立腺が縮小していくことがほとんどで、前立腺嚢胞や化膿性前立腺炎などの合併症を避けやすくなります。

 

会陰ヘルニア

会陰ヘルニアと言うコトバは聞きなれないかもしれませんので、ちょっと言葉の説明から。

 

「会陰」という言葉はお尻回りの領域を指すようなイメージの言葉です。そして「ヘルニア」とは臓器や組織が正しい場所から正しくない場所に移動している状態をいいます(いずれも簡単な説明としています)。

 

話を戻します。「会陰ヘルニア」とは、お尻周りの筋肉が緩むことで、直腸、肛門、膀胱、前立腺などの組織の位置が、本来あるべき位置から、正しくない場所に移動しているような状況を言います。

 

会陰ヘルニアの原因・理由は様々あり、単純な病態ではないのですが、その一つに「未去勢」が上げられます。未去勢犬ではお尻周囲の筋肉が弱くなりやすく、こうした内臓の位置異常が起こると考えられています。

 

会陰ヘルニアの状態は、排便や排尿に大きな悪影響を与え、ワンコの生活の質は非常に悪くなります。修復するには大変な手術が必要で、基本は、同時に去勢手術も実施することになります。

 

肛門周囲腫瘍

肛門周囲腫瘍は、未去勢オスでは一般的な腫瘍の一つです。「肛門周囲腺腫」という良性腫瘍が最も多いのですが、良性と言っても侮れません。

 

5月のブログ「できものの診察」でもお話ししましたが、良性とは「その腫瘍が直接命には関わらない」という意味合いです。しかし、良性腫瘍が大きくならないわけではありません、巨大化することは珍しくなく、肛門周囲腺腫もその一つです。

5月のお知らせ <「できもの」の診察>

 

良性でもどんどん大きくなると、腫瘤は自壊し、二次感染を起こせば異臭を放つようになります。そして肛門周囲の筋肉を傷害すれば排便のたびに激痛が走るようになります。

一日1~2回の排便のたびに激痛に苦しむのです。ワンコの生活の質はものすごく悪くなります。

 

肛門周囲腫瘍を治療する場合は、腫瘍の摘出だけでなく、去勢手術も同時に行うのが一般的です。

 

まとめ

今回は不妊や去勢手術と、それに関連する病気にスポットを当てて解説しました。

 

日本での不妊去勢手術の実施率は欧米などの先進国よりも低いとされており、当院のような一般病院でも、今回解説した病気に遭遇するケースは全然珍しくありません。

 

私たち獣医師は「不妊手術を受けていない女の子のワンちゃんが具合が悪い」と来院された場合はまずは婦人科系の病気を考えるものです。それぐらいよく遭遇する出来事なんですね。

 

今回紹介した病気たちは、基本的には不妊去勢手術を受けていると防げるものです。

 

そして、もし病気になった時はたいてい、その時に不妊去勢手術と同じことをやらなくてはなりません。

 

例として言えば、男の子の「肛門周囲腫瘍」のところでも解説しましたが、できものだけを取ることは推奨されず、できものの摘出+去勢手術となるのですね。そう、結局、去勢手術をしなくてはならないのです。

 

今回紹介した病気になり、その治療のために、結局不妊手術や去勢手術をやることになったご家族からは

 

  • 「若いうちにやっておけばよかった」
  • 「こんな病気があるなんて知らなかった」

 

という声が相次ぎます。

 

私、院長は「何が何でも不妊や去勢を受けなさい!」ということは言いません。ただ、不妊や去勢のメリットデメリット、そしてどのような病気と関連あるのか?などはぜひご家族に知っておいて欲しいと思います。

 

ペットは自分で調べてその対策を講じることはできないのですから。

 

その上で、「うちの子には手術は受けさせたくないな」と言う意見でも全然構わないと思います。大事なのは、いざ病気の時に早い発見や決断ができるよう、今回の内容のことを「知っておく」ということだと思います。

 

当院では、不妊や去勢手術を考えている方向けに詳しく解説した資料も用意しています。

 

子犬を飼い始めた方、迷われてる方、ぜひ一度勉強してみましょう。不妊や去勢は、愛犬が受ける一生に一度きりの手術かもしれません。いろいろなことを知っておいて損はありませんので。

 

それでは。