2月のお知らせ <正しい治療とは?>

2月のお知らせです。12月、1月とそれほどでもなかったですが、2月になり急激に寒くなってきた印象です。院長もちょっと体調を崩しております。皆様においても十分お体をご自愛ください。ご家族が健康でないと、ペットの健康も守れないので。

 

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「正しい治療」って何?

先月、1月11日は当院の開院日でした。2011年に開院、早くも15年目となりました。開院以来、幸いにも地域の皆様に恵まれ、ここまで大きなトラブルなく診療を続けることができました。今後も、より良い病院をめざして努力いたします。

 

さて、開院当初から診ている子犬や子猫だったペットたちがいつの間にか「お年寄り」となって、そしてその子たちが病気になり、その診察をしていると、年月が経ったのを痛切に感じます。本当にあっという間、赤ちゃんがいつの間にか老犬、老猫となってしまうんですね。

 

長く診させていただいた子たちが病気になるのは悲しいのですが、病気が判明すると、その病気の説明や治療の選択などについてお話しすることになります。ご家族と「この子にはどうするのが一番いいのかな?」という相談になるのですね。

 

どのご家族も「より良い、正しい選択をしたい」という思いは変わりません。ただ、医療目線で言う「正しい治療」と、ご家族の選択とが異なるということは山ほどあります。

 

今回は「正しい治療」とは何か?について院長の私見をお話ししたいと思います。

 

残念ですが、いつか訪れるペットの晩年、老化による病気の時はご家族にいろいろな選択をしていただくことになります。その時の思考の一助になるかもしれませんので、ぜひ最後までお付き合いください。

 

正しい治療とは?

動物も高齢になると当たり前ですが病気増えてきます。その時には当然「正しい治療」をしたいと思う患者さんが多いと思います。

 

しかし「正しい」って非常にあいまいでボヤっとしていますよね。何が「正しい」のか?ちょっと考えてみしょう。

 

まず、医療側の目線だけで言うと、「教科書的な治療」が正しい治療となります。教科書的な治療とは、エビデンスやガイドラインがあり、多くの成書に記載されているような内容を言います。

 

私も病気の説明の際に、教科書を持ち出して「ここにこのように書いてあるんですね」と説明に使ことがあります。獣医師はあまり信用力が無いので(笑)、「一獣医師が言ってるだけじゃない?」と思われないように「一般的にこういうことですよ」とお伝えしたいのですね。

 

さて、では教科書的な治療以外は「正しくない治療」なんでしょうか?まあ、タイトルが「正しい治療とは?」ですから、そう単純じゃないわけです。

 

私が個人的に思う正しい治療は「ご家族の選んだ治療」これが「正しい治療」だと考えています。

 

病気だということをお伝えすると、当然ですが皆さん悲しみます。そして、私の方から「医療目線での正しい治療や今後の方針」をお話しをします。そして、ご家族は必死に考えて「どうするのが一番いいのか?」その選択をすることになるわけです。

 

私はご家族がどのような選択をしても、それをできるかぎり尊重したいという考えでいつも診療をしています。悲しく、苦しい思いをしながら選んだものですから、私は「それ」が当たり前かなという感覚なんですね。

 

ですので、たとえそれが教科書的な治療の選択でなくとも「正しい治療選択」だと思うのです。もちろん、ご家族が判断を迷っている場合は、何度もお話をしながらアドバイスをいたします。

 

「正しい治療選択はご家族によって違う」と言うのが私の答えです。

 

治療選択における基準や材料

では、現実的にご家族はどのような基準で治療の選択をするのでしょうか?

 

まずは、私の方から一般論や教科書的な治療のお話などをしますが「それ」を選ぶことが必ずしも正解ではないとお話しをしました。

 

診療現場では、ご家庭の状況、ペットの状況、思想や信仰、医療に対する価値観などによって、様々な選択をされる方がいるのが現実です。ここからは、実際に体験する内容を基にお話ししたいと思います。

 

ペットの性格や性質は?

動物たちも生き物ですから、当たり前ですが感情があり、嫌なことはストレスになります。ペットによってどの程度の治療に耐えられそうか?ストレスを受けやすいかどうか?などはご家族が一番理解しているところです。病気によっては手術、入院、長期通院など、ストレスが大きくなる対応も必要となります。どの程度まで許容できるかがペットによって、ご家族によって異なるのが実際です。治療選択の際にペットの性格や性質も考えて選択をすることも、現実的には重要な要素となります。

 

飲み薬は可能か?

ほとんどの病気、特に慢性病では投薬ができるかどうかで治療の選択肢の幅が違います。

「飲み薬が一切無理」と言うケース。ビックリするかもしれませんが、意外と多いものです。飲み薬が使えないとなると治療の選択肢は極端に狭くなり、何らかの投薬をしようとすると、手段はほぼ注射のみとなってしまいます。2~3日で治るケガや病気ならともかく、慢性病で長いお付き合いが必要な場合に、毎日注射に通うというのは現実的ではありません。このように、投薬ができない場合、治療できるものもできなくなってしまうことが多いです。当然「教科書的に書かれているような治療」を選択することも難しくなります。

近年は、偏食のペットが増大しており、ちょっとでも口に合わないものは拒絶する動物も珍しくありません。こういう動物では特に投薬が困難になることが多く、偏食にならないような「若い頃からの食育」は重要と言えます。

以下の過去ブログ記事の中段に「食育の話」を書いています。興味のある方はご覧ください。

8月のお知らせ <できますか?~投薬、点眼、耳のケア~>

 

食事の好き嫌いは?

病気の種類によっては食事治療が有効な治療オプションになることがあります。

例をあげると、慢性腎臓病、蛋白漏出性腸症、猫の甲状腺機能亢進症などでは食事療法が有効なことが多く、治療オプションとして重要です。しかし「好き嫌いが多く、好みのモノ以外は食べない」などと言う場合は、選択できないことも少なくありません。この場合は、食事による治療対応が重要とわかっていても取り組むことはできないわけです。

前の項目でもお話ししましたが、最近では偏食の子が多く、食事治療が不可能なケースがたくさんあります。上のブログ記事も参考にしてみてください。

 

眼薬は可能か?

眼は少し特別な領域です。眼の病気では点眼処置ができないと、治療の範囲が極端に狭くなります(ほぼ治療できないと言っていいくらい)。手術が必要なケースでも多くは点眼を併用する必要があるため、点眼不可能な場合は手術の選択も取れません。

 

入院の選択肢は?

多くの手術や重度の内科疾患では入院が必要になります。「入院が無理」と言う場合はそもそも外科手術の選択は取りずらいですし、重度の内科疾患も通院で可能な範囲でやることになります。つまり、教科書的な医療目線での「正しい治療」の選択は取れなくなります。

入院が可能かどうかはペットの問題もありますが、ご家族の意向によるところも大きいです。「絶対に離れたくない」「入院はさせない」と決めていたご家族でも、入院の必要性をご説明すると、(しかたなく)納得いただけることも多く、それにより助かった命もたくさん見ています。

しかし、中には「どのような状況下でも入院はNG」と決めているご家族もいらっしゃいます。ご家族の間でも意見が割れやすいところですので、あらかじめ「重い病気の時」「入院が必要と言われたとき」に入院治療を許容するかどうか?はご家族間で価値を共有しておくことをお勧めいたします。

 

全身麻酔の選択肢は?

「全身麻酔は絶対にNG」というご家族もいます。全身麻酔は手術の場合はもちろん、CT検査やMRI検査などにおいても必要、つまり診断を付ける前の段階の「検査」でも必要になることがあります。全身麻酔ができないとなると、治療だけでなく、検査の幅もうんと狭くなります。そもそも診断がつけられないケースが出てくるのです。

全身麻酔はみなさんが思っているほど危ないものではないのですが、特に過去に全身麻酔で悪い経験をしている方だと、全身麻酔の選択肢を排除されている方もいるようです。

 

手術の選択肢は?

ご家族の中には「一生のうちに手術は一度も受けさせない」という信条、思想の方もいます。言葉を選ばず言えば「手術が必須な病気の場合は治療をあきらめる」と言う選択を取るという意味です。さすがにこれは極端かもしれませんが、過去に手術でつらい思いをした経験のある方などでは、少ないですがこのように考えている方がいるのが現実です。通常、手術は入院とセットになりますし、これに関しても入院治療の選択と同様、ご家族の価値観によるところかもしれません。

 

抗がん剤の選択肢は?

がん治療の場合、外科および抗がん剤もしくはその両者が治療の選択肢となることがほとんどです。しかし「ウチの子には抗がん剤だけは絶対に受けさせたくない」というご家族も少なくありません。この場合は、抗がん剤が有効な腫瘍(例としてはリンパ腫)の治療選択はそもそも取れません。これも、ご自身やお身内などで、過去に抗がん剤でつらい思いをした経験がある方では特に拒否される方が多いと感じています。

 

動物の抗がん剤治療については病院看板猫「なこ」の闘病記録が何かのお役に立つかもしれません。「なこ」は今も抗がん治療を継続中です。よろしければご覧ください。

2月のお知らせ <ナコ 闘病記録 最終回>

 

年齢での選択は?

例えばですが、10歳を過ぎたら手術や入院が必要な病気は治療しない。通院でできる範囲に限定する。などと決めているご家族もいらっしゃいます。医学的には10歳と言う所に何の区切りもありませんが、一般的な感覚だと高齢、老齢と捉える方が多いようです。

「老齢の子にあれこれするのは可哀そう」と言う価値観を持たれるご家族は少なくありません。現実的にはペットの寿命は15歳ぐらいが平均となるようです。体感的にも15歳以上のペットはぐんと少なくなる印象です。どのくらいの年齢まで目一杯の治療をするのか?難しいところですが、年齢も選択における重要な要素になるのが現実です。

 

二次診療の選択肢は?

疑われる病気によっては、二次診療施設での検査や治療が「教科書的な正しい治療」となるものがあります。その場合は、遠方の二次診療施設まで受診していただかなくてはなりません。時間が取れない、移動手段がない、コストがかけられない、などの理由で二次診療施設の受診は無理、と言う方もたくさんいらっしゃいます。当院のような一次病院ではできない検査や治療もたくさんあるため「二次診療施設を提案された場合にどのような選択を取るのか?」、ご家族間で価値観を共有しておくことをお勧めいたします。

二次診療施設については過去ブログでも解説しています。

10月のお知らせ <二次診療施設の話>

 

治療コストのリミットは?

どの程度の治療費用まで負担できるかも重要な要素です。正しい治療とわかっていても、ものすごい高額なものは難しいのが現実。具体的にわかりやすい一例を出すと「がんに対する放射線治療」が挙げられます。放射性治療は、①全身麻酔が必要、②二次診療施設で実施、そして③かなり高額、という治療になります。費用面だけでなく、今までお話ししてきたいくつかの選択もクリアしないと治療は受けられません。私の過去の経験からも、放射線治療まで進んだケースは片手で数えるほどもありません。

 

治療費の「高い」「安い」については個人の価値観によるもので、一概には申し上げづらいですが、大きな病気の治療には「それなりの費用」が掛かります。この時に「費用のリミットがガッチリと決まっている場合(例えば30万円以上は一切出せない、などと言う場合)」は治療や検査が中途半端で終わってしまうことがあり、正直、前向きな治療はあまりお勧めできません。治療費や検査費は予期せぬことも起こり、その幅はどうしても大きくなりがちです。ある程度余裕をもって考えておかないと「想定よりも治療コストがずいぶん高くなってしまった」ということは良く起こる話です。特に手術、入院、二次診療施設の受診などが絡む場合は、一般的に高額になることがほとんどです。

 

まとめ

ペットに「より良い医療、治療を受けさせたい」と思うご家族の気持ちはみな共通です。もちろん当然の気持ちです。

 

しかし、その「より良い治療」と言うのは現実的にはご家族とペットの状況によって大きく異なります。「コレが正しくて、コレが間違っている」などと、絶対的に決められるものではありません。

 

今までお話ししたような、色々な条件や材料を考えながら、そのコそのコに合わせてご家族が悩みながら導いた選択が「正解」なのです。

 

治療の選択する場合に、ご家族にはいろいろなことを考えてもらう必要があります。その際、どんなことを基準や材料にして判断、選択しているのか?今回の記事では、現場で実際によくお聞きすることなどを中心にお話してきました。

 

悲しいですが、生き物には寿命があり、全ての動物で共通して必ずやってくる話です。順番もご家族よりもペットが先になります。絶対に考えなくてはならない時期が来るということですね。

 

不幸な病気やケガはいつ訪れるかわかりません。まだ若いペットでも、不幸にも早くから慢性病と闘わなくてはならないケースもあります。

 

「今はまだ元気だし若いから」と言う方も、今回の内容を、なんとなくでいいのでシミュレーションしていただくことをお勧めします。色々な選択の際に、ご家族間で意見が割れることも多いので、ご家族で価値観を共有しておくことも大事だと思っています。

 

それでは。みんさんのペットたちが健康に、寒い冬を乗り越えられますようにm(__)m

 

春まではもうすぐです!

 

 

 

 

 

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