11月のお知らせ <犬の咬傷事故を考える>

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犬の咬傷事故を考える

「犬がヒトや他の犬を咬んでケガをさせてしまった」と言う事故がたびたびニュースになります。

 

当院でも時折「他の犬に咬まれてしまった」という犬がやってきます。

 

また、ヒトを噛んでしまって「狂犬病鑑定」が必要なため来院する犬もいます。

 

犬の咬傷事故は、環境省の統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和5年度版)」によると、2022年度の犬による咬傷事故は年間4923件。そのうち公共の場での発生が3019件とのことでした。

 

ここ最近は、おおよそ5000件程度が報告されてるようです。

 

ただ、報告・記録されているものがこの数なので「報告されない事故」を含めると潜在的にはこの数倍の件数になると思われます。一日20~30件以上の可能性もありますから、ぜんぜん少ない数字ではありません。

 

さて今回は、犬の咬傷事故を防ぐにはどうしたらよいのか?についてお話しします。

 

ポイントは二つ

  • 過信しない
  • ノーリードにしない

この二つを理解するだけで、咬傷事故はだいぶ減るのではないかと思っています。それでは解説します。

 

絶対に咬まない犬などいない

まずは多くの方が勘違い&誤解をしている事実をお話しします。

 

それは「絶対に咬まない犬などいない」ということです。

 

  • うちの子は絶対に咬みません
  • うちの子は気性がいいので大丈夫です

 

と、自信満々におっしゃる方は多数います。この過信がよくありません。

 

もちろん、我が子のようにかわいい愛犬が「咬む犬」だと思われたくないでしょうから、そうおっしゃる気持ちもわかります。実際に過去に咬んだことが無ければそうおっしゃるのも普通でしょう。

 

しかし、世の中のすべての事象において「絶対」が存在しないのと同様「絶対に咬まない犬」も存在しないのです。

 

「うちの子は咬みません」

 

という犬を診察して、咬まれそう、あるいは咬まれたことは数えきれないぐらいあります(誇張ではなく本当に事実です)。

 

そんなときはご家族も慌てて

  • あらやだ、病院が嫌いなのかしら?
  • 男の人はだめなのかな?
  • 緊張してるからしょうがないね。

などとフォローするのですが、、、大丈夫です!

 

私たち、獣医師やスタッフは「(言葉を選ばず言えば)ハナから信用していません」ので、常に「そういうモノ」と思って診療にあたっています。ちなみにこれはどの動物病院でも同じです。勘違いしないで欲しいのですが「あなたの犬は狂暴です」と言っているわけではありませんよ。

 

私たちは仕事柄たくさんの犬を見ています。

  • この子は絶対に咬みそうもないな、という本当に穏やかな犬
  • 人慣れしておらず、今にも襲いかかってきそうな犬
  • ビクビクしていて、スイッチが入ると咬んできそうな犬

など、他にもいろんなパターンを認識しています。

 

ただ、私たち動物病院のスタッフが共通して意識していることは「絶対に咬まない犬などいない」ということです。咬まれないように仕事をするのもプロとして大事なスキルなので、どんなに大丈夫そうと思っても常に十分に気を付けているのです。

 

例えば、

「すごく穏やかな子だけど、今日は足を痛めているから触ったら咬むかもしれないな」

 

とか

「この子は何かスイッチが入ったらきそうだな」なんて時は極力丁寧に、そして慎重に診察を進めていくなど、そんな感じですね。

 

ちょっと話は逸れますが、以前、身体検査のブログ記事でもお話ししましたが、しつこく体を触ればイイってもんでもないんですね。ワンコの性格や雰囲気から「いい意味で適当」にやることも「スイッチ」を押さないために重要なんです。

5月のお知らせ <身体検査についてお話しします>

 

さて、話を戻します。

 

くどいですが、犬を飼育するすべての方に対し、根本的な意識として持ってほしいのは

 

「絶対に咬まない犬などいない」

 

ということです。この意識さえ持っていれば防げたであろう悲惨な事故がたくさんあるのが現実。

(参考)過去の痛ましい咬傷事故(東洋経済オンラインの記事から)

 

また、自分の犬だけでなく、仲のいいお友達の犬や、よくお会いするお散歩仲間の犬なども同様です。すべての犬について「絶対に咬まない犬などいない」と意識しておいてください(くどくてすいません)。

 

もちろん「常にすべての犬に厳重注意しろ!」と言ってるのではありませんよ。それだと「車に轢かれるかもしれないから外出しない!」ということと同じになってしまいますからね。

 

楽しく犬と触れ合いながらも「この意識を持つだけで変わることがあるよ」ということが言いたいのです。

 

咬傷事故の当事者に話を聞くと

  • 今まで一度も咬んだことなんて無かった・・・
  • 原因がわからないけど突然豹変して・・・

ということを言いますが、これは「絶対に咬まない」という意味不明な自信が根底にあったからだと思います。

 

「今まで大丈夫だったから」と言うのも良く意見ですが、事故と言うのは得てしてそういうモノです。だって、今までも咬傷事故を起こしていたなら、そりゃ気を付けるようにするでしょうから。

 

先ほどリンクした東洋経済の記事中も「ウチの子は大丈夫」と過信しないで欲しいとまとめています。

 

 

No!ノーリード

二つ目はノーリードについてです。まず最初に結論を言いますが、ノーリードは絶対にやめてください。

 

つい先日、当院に「犬に咬まれた」というワンコが来院しました。

 

「公園でノーリードになっていた犬が襲いかかってきた」ということでした。このケースは幸いかすり傷程度で治療も必要がない程度でした。しかし、過去には大けがを負った症例や、手術が必要になった症例も経験しています。

 

ご存じない方も多いかもしれませんが、公共の場でのノーリードは「法律違反」となります。また、自宅敷地内においても絶対に逃げ出さないようにすることが義務付けられています。

 

そして、犬の咬傷事故の多くのケースでノーリードが絡んでいます。事故の主要因と言っていいでしょう。

 

なお、咬傷にならずとも、犬のノーリード関連のトラブルはとても多く、例えば「ノーリードの犬が突然向かってきたため、驚いて転倒からの骨折や後遺障害」または「ノーリードの犬が自転車にぶつかりを転倒させ交通事故の引き金になる」など、多数の重大事件が報告されています。

 

当院の裏に、広場のある「羽鳥野公園」がありますが、そこでも時々ノーリード状態の犬を見かけます。

 

ノーリードで遊ばせているご家族は「誰もいないしイイだろう」ぐらいに思ってるのかもしれませんが、勘違いしてほしくないのは「ノーリードの犬がいるから誰も入ってこない」のです!

 

私もノーリードの犬がうろついていたらその公園は使いません。「あ、犬が放たれているからやめとこ」って、人が寄り付いていないだけで、それを「誰もいないから」とか「うちの子はお利口なんで」と言う自己中心的な勘違いをしないで欲しい。

 

そもそも世の中のすべての人間が犬好きではありません。犬の苦手な人もいるのだという小学生でもわかりそうなことが理解できないアタマなのでしょう。

 

大きな事故があってからでは遅いのですが、ここにも「うちの犬は大丈夫」という意味不明の過信があるのでしょう。

 

こういう一握りのアタマの悪いマナー違反者がいるせいで、多くの一般的な犬のご家族はとばっちりで迷惑していると自覚してほしいものです。

 

とにかくノーリードは法律違反です咬傷事故で最もよく見るパターンです。本当に絶対にやめてください。

 

なお、ノーリードが原因で起こった事故によっては多額の損害賠償が必要になります(※ノーリードについては咬傷以外にも事故のパターンはたくさんあります)。ぜひ下記資料を見てください。

埼玉県の資料 <ノーリードによる事故 訴訟一覧>

 

最後に「ノーリードNG!」に関するとてもためになる記事をいくつかリンクしておきます。

 

犬をノーリードで散歩させることはNG!重たい罰則につながる危険性も

【ノーリードはやめましょう】〜愛犬のノーリード事故死から一年を迎えて〜

愛犬をノーリードで散歩し、車に轢かれる寸前。それでも平気な顔をしていた夫婦に学んだこと

 

まとめ

どうすれば犬の咬傷事故を防げるか?についてお話してきました。

  • 過信しない、絶対に咬まない犬などいないと理解すること
  • ノーリードにしないこと

この二つを中心に解説しました。

 

「うちの子は絶対」「うちの子に限って」と言う人、意外と多く感じます。

 

他人を100%理解できないように、ペットを100%理解することもできません。

 

ペットは時に理解できない、予測のできない行動をとります。それが「今までしたことのないような行動」のことも。そしてそれが「危険な行動」のこともあり得るのです。

 

ペットを100%理解できないことは何も悪いことではありません。むしろ、よくわからないことをしたり、予想できないことをする、だからこそ魅力的な存在なのではないでしょうか?「ペットの全てが理解できている」と思いこみたい人たちには、理解しようと試行錯誤する、でもできない。だけど、そんな生活だからむしろ楽しくて、ペットが幸せにしてくれているんだ、と気づいてほしいです。

 

もう一つのノーリードは、「周りが見えない」「周りを理解しようとしない」という、ただの自己中心的なマナー違反の最たるものです。

 

ノーリードがダメな理由とか危ない理由とかは正直どうでもいいんです(理解はしてほしいですが)。

 

ようは、世の中には犬の苦手な人、得意でない人、嫌いな人もいます。このシンプルなことが理解できているかどうか?

 

ただ、それだけ。

 

「そういう人がいるんだ」という小学生でもわかるような、このたった一つだけのことを理解できていれば、そもそも気軽にノーリードなんてできるわけがありません。

 

ノーリードを気軽にしてしまう人種は、そもそもこんな簡単なことが理解できない人間レベルということなのかもしれませんが。

 

もし、ご近所で悪質なノーリードの犬や飼主を見かけたら、焦って直接注意するのではなく、様子によっては公的機関に相談することも検討してください。今言ったように、そもそもそういうことをする人は、人としてレベルが低い可能性があるので、逆ギレされたり、逆恨みを買ったり、そんな可能性もあります。行政もしくは警察に相談、対応してしてもらう方が良いかもしれません。

 

今後、咬傷事故が減っていくかどうかは、犬を飼う人の意識にかかっています。どうか、咬傷事故が減って、犬と楽しく暮らせる社会が広がっていきますように、、、願うばかりです。

 

それでは。