不妊手術と去勢手術 ~動物病院の手術料金はなぜ違うの?~

院長です。

不妊・去勢手術。

当院のような、一般的な動物病院では最も多い手術の一つですね。それだけ大事な手術でもあります。若いころに不妊や去勢を受けていただくことが多いのですが、その時に動物がイヤな思いをしてしまうと、手術をきっかけに病院が嫌いになったりもしてしまいます・・・。安心、安全な手術を心がけるのは当然ですが、動物たちの一生に悪影響を与えないような、細かな心づかいもとても重要です。

さて、その不妊・去勢手術についてですが、主に他病院との手術費用の違いなど、つまり料金的な問い合わせが多いため、一度はご説明したいと思っていました。手術を考えている方はもちろん、動物病院の料金について興味のある方もいらっしゃると思いますので、ぜひ最後までご覧になってみてください。

さて、まず大前提です。

動物医療は自由診療のため病院間での料金の取り決めは違法となります。
そのため、各種料金の設定は病院独自の判断で行っています。
料金が違うのはこのためです。むしろ違うのが当たり前と言えます。

なので、もちろん不妊・去勢手術も病院によって料金が異なるのです。

当院にも手術料金の問い合わせがチラホラ。
他と比較して高いよ!と言われることもチラホラ。

しかし。

今から重要なことを言います。

「料金の単純比較には、あまり意味はありません」

これは、不妊・去勢手術だけの事ではないのですが、今回はコレをテーマでお話していきます。

「え?でも、そりゃ安い方がいいでしょ・・・。」
という声が聞こえてきそう・・・。

まあ、確かにそう思うのが人情かもしれません。

では、そう思った方にちょっと質問いたします。

「100万円のクルマは高いですか?安いですか?」

・・・・・・・・・。

いきなりすいません(笑)
どうでしょうか・・・?

・・・と聞かれても、答えられないですよね?

なぜでしょう?

当たり前です。だって、この質問では、クルマの種類やら装備やら新品かどうかなど、つまりクルマの内容が全くわかりません。内容のわからないモノの値段がどうかといわれても困りますよね。たとえば、中古のオンボロ軽自動車なら高いでしょうし、フル装備の外車なら100万円なワケないですよね。オンボロでもプレミアがついている車種ならすごい安いと言えるかもしれません。

すいません、話がそれました。不妊・去勢手術の料金に戻しましょう。

では・・・、

「5万円の不妊手術は高いですか?安いですか?」

さて、どうでしょう?

実は、この質問も「答えられない」、というのが答えです。
(※この5万円というのは例えの話です。当院の料金設定は体重別です)

なぜなら、先ほどのクルマの例と同じで、これだけでは内容がわからないからです。

「え!?病院によって手術内容って違うの??」
と思う方がきっといますよね。

違います。

不妊・去勢が完了した、という結果だけをみれば同じといえるかもしれません。

しかし、そこに至る内容は施設によりだいぶ違うのが現状です。実はその内容の違いは重要なところなんですが、なかなか一般の方に把握できるところではないですよね。

なぜ、施設により内容が異なるのでしょうか?

一口に不妊・去勢手術といっても、麻酔や手術法、使用する薬剤、手術に用いる材料の選択などには、特別な決まりがないからなのです。

ですので、手術前検査や点滴の有無、鎮痛法、縫合糸の種類などなど細かな内容については、各々の施設が独自で決定しています。なので、施設によって、細かい違いがたくさんあるのです。

では、内容の違いについて、もう少し具体的に見てみましょう。

まずわかりやすいように、やや極端ですけど一例をお示しします。

とある病院の不妊・去勢手術では、

★鎮痛処置はしない・・・
★手術前検査はしない・・・
★静脈点滴はしない・・・

で、手術はする・・・💦

という「内容」だそうです・・・(-_-;)。
コストダウンのためなのでしょうか?できればウソであってほしい・・・。

ただ、そういう内容で実施する施設もあるということです。

ちなみに、もうなんとなくは想像つくと思いますが、この例はお世辞にもいい内容ではありません。確かに拘束力のあるルールはありませんが、様々な分野で大まかな指針(ガイドライン)は存在します。獣医師の裁量にはなりますが、なるべくよりよいと考えられる方法や内容を選択していく義務はあるのです。

さて、他にも細かな具体例を挙げてみましょう。例えば、「鎮痛処置してますよ」と宣言している施設があっても、その鎮痛処置の内容は、実は病院によってすご~く差があったりします。

消炎鎮痛剤のみの処方で「鎮痛管理しています!」という施設もあれば、消炎鎮痛剤だけでなく、局所麻酔や麻薬指定薬剤など複数の鎮痛薬を併用する施設もあります。実際は前者のような方法では、不妊手術などの鎮痛としては不十分と考えられています。動物は、「イタイ、イタイ」と声に出して言いませんから、わかりにくいところかもしれませんが・・・。

具体的な内容の違いについては、ほかにも使用する縫合糸の種類であるとか、手術前検査の内容とか、麻酔時のモニタリングであるとか、・・・などなど多数ありますが、ちょっと書ききれないので詳細は省きます。

要するに、施設によって「内容は全然違うかもしれない!」ということなんです。

ですから、何度もしつこいようですけど、内容が全然違うものを、料金のみで比較してもしょうがないんですね。

ときどき雑誌などで、『相場は〇〇円』、とかありますけど、これも内容を比較してないことがほとんどで、何の意味もないと思っています。

ただ、実際は一般の方にとって、細かい内容についてはよくわからないというのが普通でしょう。

なので、一応当院で行っている不妊・去勢手術の内容の一部を、簡単にですが紹介させていただきます。もちろん、詳細については遠慮なくお問い合わせください。

★手術前検査★
原則実施します。検査の内容は動物の状況にもよりますが、血液検査、X線検査など、必要と思われるものは実施いたします。

★静脈点滴★
原則実施します。麻酔薬による低血圧への対応や、循環確保のために必須の作業です。静脈に管が入っていますので、様々な薬剤の投与も迅速に行えます。

★疼痛管理★
当院では、麻薬指定薬剤を含む複数の鎮痛剤を併用します。なるべく痛みなく手術を終わらせることで、ストレスを最小限にして術後回復を早めます。こうすると病院を嫌いにならずにすむことも多いのです。また、鎮痛をしっかりしないと全身麻酔が不安定になり危険です。逆に鎮痛管理がしっかりしていると全身麻酔はとても安定します。つまり麻酔リスクも減らすことができるのです。

★縫合糸の選択★
血管結紮や腹壁縫合など体内に残す糸は、なるべく動物の一生に影響が出ないように、もっとも組織反応が少ないとされている吸収糸を使用しています。

と、あくまで一例ですが、安心、安全のために必要なことはなるべく実施するように心がけています。なお、当院の不妊・去勢手術料金はそれを含めたものとして設定しています(※持病があったり若くない動物の場合は料金が異なります)。

なかには、飼主さんに、「手術前検査はしますか?」とか、「痛み止め使いますか?」という選択を迫る施設もあるようです。が、私にはこれもよくわかりません・・・。プロとして獣医師の目線で重要・必要と思ったことは、積極的に実施すべきだと思うからです。

ですので、もしも、ウチの子は痛み止めはいらない!点滴はいらない!だから安くしてくれ!、という方がいたとしても、私はそういう方はお断りしますのであしからず(まあ、実際はそんな方はいませんけどね♪)。

不妊・去勢手術は、もしかしたら大事なご家族の一生に一度きりの手術かもしれません。当院では、動物の一生に悪い影響がでないよう、安心、安全を心がけて実施しています。料金のことも含め、ご不明点は遠慮なくお問い合わせください。

院長 窪田