【第4話】病院の猫がリンパ腫になりました。

「なこ」の検査その②~画像検査~

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さて、リンパ腫になってしまった「なこ」。病気を診断した際に実施した精密検査のお話し第二弾です。前回は血液検査のお話し。そして今回のテーマは「画像検査」です。今回はボリュームの多い話なのでお時間のある時にじっくりご覧ください(笑)

 

一般的な画像検査である、①X線検査(レントゲン)②超音波検査(エコー)。この二つを「なこ」にも実施しました。順に説明していきましょう。ところで、このブログでは順番で解説していますが、実際は血液検査も画像検査も同時同日に行っています。「血液検査後にしばらく様子見て画像検査」とかではありません。すでに何度もお話ししたように、各検査は補完しあって成り立っていますので同時に評価することが重要です。

 

まず、検査の説明から

★X線検査とは・・・

X線撮影装置
↑X線検査の画像 レントゲン写真とも言いますね。

X線検査は簡単に言うとカラダの白黒写真です。上の写真も白黒です。白さのレベルがカラダの場所によって違いグレーっぽいところもありますよね。ざっくり言うと

  • 白→骨とか水分
  • 黒→空気

です。

細胞や臓器は水分を含み血液が流れていますので、基本的には白く映ります。対して、肺のような空気を多く含む臓器は黒っぽく。胃腸にもガスが入りますので黒っぽく見える場所があります。白さと黒さのバランスから各臓器の

  • 位置
  • 大きさ
  • 陰影度(白さと黒さが通常と比べてどうか)

これらを評価するのがX線検査です。また、X線検査は骨を評価するのが得意ですから、骨に生じた病気は捉えやすいといえます。さて、細かいことはこのぐらいで。

 

はたしてX線で何が診断できるのか?それが気になりますよね

 

答えから言うと・・・「診断はできません!」

 

え?!と思われるかもしれませんが、本当です。もう少しちゃんと説明しますと、

 

「X線写真のみを眺めていても診断名や病名は出てこない」

 

ということが言いたいのです。私たちがX線写真から読み取るのは「診断名」ではなくて「所見」といいます。X線検査の「所見」について具体例を挙げてみましょう。

  • 腎臓は二つ確認できる。サイズは左腎がやや基準よりも大きい。
  • 肺の白さが通常よりも濃く映っている。
  • 心臓のサイズは基準よりも大きい。

こんな感じです。これって病名ではないですよね?

 

X線検査のみで言っていいのはココまで!毎度同じ話ですが、診断というのは様々な検査を組み合わせたり患者さんの状態、飼主んさんのお話などから総合的に判断するものなのです。

そんなこと言っても、レントゲン写真で骨が折れてたら「骨折」だろ。それは病名じゃないのか?と反論されるかもしれません。

 

違います。

 

確かにレントゲン写真で骨が真っ二つなら骨折です。それは間違えないです。しかし、骨折という言葉は「診断名」ではなく、ただ「骨が折れている」ということを表現したコトバです。言い換えれば「所見」です。骨折の理由が外傷や事故なのか?病的骨折(腫瘍による骨折など)なのか?その原因までわかって初めて病名がつくことになります。X線写真でわかるのは「折れている」という事実だけ。「骨の折れた原因として〇〇が怪しいな」と思っても断定はできません。

 

他の例を挙げると、もしX線で肺が通常よりも白ければ、そこで何かが起きているかもしれないな。私たちはそう考えます。ただX線検査のみで言っていいのははこれもココまで。その先の診断は他の検査と患者さんの状況から総合的に導き出します。

 

医療ドラマなどでは、よくX線やCT画像を眼の前にしてドクターが診断名をバシッと言いますが、あれは「ド ラ マ」です。実際はそのようなことはありませんよ!(ドラマも楽しいですけどね)

 

さて、前置きが長くなりましたが「なこ」にも全身のX線撮影を実施。結果、病気を疑うX線検査上の所見は見当たりませんでした。

 

前回説明した血液検査、そしてこのX線検査も特に異常を認めなかったのです。

長くなりましたが、次、超音波検査へ・・・ 

 

★超音波検査(エコー)・・・

超音波検査もX線検査と基本的な考え方は一緒。一例としてこんな画像が見られます。

左の黒い部位は胆嚢、その周囲は肝臓

基本的にはX線と同様、白黒画像ですね(カラーもありますが割愛します)。

X線と同様、その白さと黒さで各臓器を評価します(超音波の場合は水分は黒ですが細かいことはOK)。X線との大きな違いは臓器の内部構造が非常によくわかるということ。X線はいわば「影絵」です。シルエットはわかりますが、内部構造はわかりません。超音波検査は内部の構造を見ることができます。しかも非常に細かいところまで評価が可能です。

超音波検査(エコー検査)装置

動物病院業界では、ここ10年ぐらいで高性能の超音波検査機器が手に入りやすくなりました。これにより診断技術がかなり高くなったといえます。当院でも最も利用率が高く役に立っている器械の一つです。

さて、それでは「なこ」に行った超音波検査(以下エコー検査とします)の画像を一部出してみます。こんな感じ。

↑「なこ」に実施したエコー検査画像

もちろん、これだけ見せられてもわかりませんよね。実はついに「なこ」が患っている「リンパ腫」のしっぽが見えています。

 

上の画像に写っている臓器は「なこの小腸」です。小腸の内部構造を見ている感じです。腸は層構造(バームクーヘンみたいなイメージです)になっていて最も内側には腸粘膜があります。細かくは省きますが5層の層構造になっています。エコー検査では、なんとこの細かい層構造を見分けることができます!

で、キチンと層構造が確認できるかどうか?私たちがエコー検査で小腸を見るときはそこに着目しています。

一般の方向けにごく簡単に言うと

  • 5層の構造がハッキリと見えていれば正常
  • 5層の構造がハッキリ見えなければだいたい異常(何かがある)

です。腸の層構造所見は非常に重要といえます。さて、説明を加えた「なこの小腸」画像を再掲しましょう↓

↑先ほどの画像に説明を追加

実はこんなに細かいところが見えているのです。すごいですよね!

そして、小腸壁の一部に、層構造が不明瞭になっている部分を発見しました。

 

一般の方にはすぐわかりずらいのは当然です。私たち獣医師はエコー検査の「訓練」を受け、そしてもう長年同じ検査を繰り返し「経験」しています。そうすると、パッと見た瞬間に「あれ?」と、違和感を感じるようになります。

 

今回も「なこ」の腹部臓器を一通り確認するなかで、この部位が出た瞬間にとてつもない違和感を感じました。注意深く確認すると、小腸の中でも十二指腸の一部、おおよそ5cmぐらいの範囲で層構造が不明瞭になっています。そして、周囲の腸間膜リンパ節もやや大きい。

 

「おかしいな・・・」

 

血液やX線ではとくに何事もありませんでした。このエコー検査でようやくわずかな異常所見(小腸の層構造の不明瞭化)を見つけました。この所見が今後の検査方針のとっかかりとなります。

 

自分でいうのもですが、結構しっかりと検査をしないと見落とす可能性もあるわずかな所見です。ぼやっと検査していたらおそらく見落としてしまいます。また、エコー検査の技術がなければ見つけられないと思います。

 

私は獣医師になり17年になります。大学卒業後はエコー検査技術は全くありませんでした(当時の大学ではしっかりとは教えていない)。しかし、日々現場を経験する中で「エコー検査はめちゃくちゃ重要だ」と確信、すぐに自己投資として仕事をしながら検査技術を学びに行きました。当時の給料から考えるとかなり高額な投資でしたが、有給を取り定期的に勉強に行ったことが懐かしく感じます。それからは、大学の研修医(画像診断科)を経験したり、夜間救急病院で画像検査の専門医に指導を受けたり、、、人より多く画像診断の勉強をしてきたな、と思います。

さて、私の話はどうでもよかったですね(笑)

 

「なこ」の話に戻しましょう。

 

この「小腸の層構造の不明瞭化」の所見、異常と考えます。

 

でも、やはりエコー検査だけでは診断名はでません。繰り返しお話ししてきたのでもうおわかりですよね。「ココ(小腸)で何かが起きている」ということだけがわかるのです。

 

ですから「何か」とは何か?これを突き止める必要があります。

 

さて、ちょっと長くなったので、これまでの経緯を一度簡単にまとめておきましょう。

  • 「なこ」は良く吐いていた、食欲が低下気味だった←症状
  • 「なこ」の体重が経時的に低下していた←兆候
  • 血液検査では異常所見なし
  • X線検査では異常所見なし
  • エコー検査で「小腸の層構造の不明瞭化」を発見

たしかに、小腸で何か悪いことが起きていれば、症状や兆候とも結びつきます。

 

であれば、次はやはりダイレクトに小腸を調べるしかなさそうです。

 

そこで「なこ」には「さらなる」精密検査を受けていただくことになりました。

  

(つづく)→【第5話】 病院の猫がリンパ腫になりました。 「なこ」さらなる精密検査へ。